予測不可能なコロナ時代を生き抜くための雑草の戦略

予測不可能なコロナ時代を生き抜くための雑草の戦略

コロナウイルスによる世界的パンデミックにより、2020年は生活に大きな変化が起きた年でした。そして、2021年も年明けから早々に緊急事態宣言が出され、まだまだ先行きが不透明な状況が続いています。

これほど社会全体のルールが大きく目まぐるしく変化する年は今までになく、インターネットの普及で社会の価値変容のスピードが速くなったと言われるここ十数年の比にならない。まさに“先が見えない予測不可能な時代”に直面していると言えます。

以前、昆虫のセミが“素数”や“宇宙”と関係があるという記事(リンクはこちら)において、身近な生物の営みが人の文化や生活の発展のヒントになり得るということについて書きました。

実は、予測不可能で激しい変化が起こる特殊な環境を得意とする生物がいます。それは雑草です。

今現在我々が直面しているコロナ時代を生き抜いていく上で、雑草の戦略が役に立たないわけがありません。

植物の3つの戦略

イギリスの生態学者であるジョン・フィリップ・グライム博士は、植物の生存戦略を以下の3つに分類しています。

  • 競争戦略(Competition strategy)生育環境に変化が起きにくい、気候や気温が良好な場所
  • ストレス耐性戦略(Stress tolerance strategy)…乾燥、暑さ寒さなど過酷な生育場所。
  • 攪乱適応戦略(Ruderal strategy)人為的または自然的に生育環境に変化が起きる。

生育場所が安定していてストレスもない環境では他に先駆けて太陽光を吸収するために縦に大きく伸びて枝葉を広げる競争力の強い植物が生き残る。水のない砂漠ではサボテン、海水が入り混じる汽水域ではマングローブといった他の植物が生育することが難しい環境ではそのストレスに耐性がある植物が生き残ります。

植物、ひいては生物全てに当てはまる生存戦略の一番のポイントは“得意な場所で勝負している”ことに尽きます。今では普通にビジネス界隈で使われるようになったニッチという言葉ですが、元を辿ると生物学の用語が始まりと言われています。

ニッチは隙間と意訳されますが、言い換えると「ナンバー1になれる自分の得意な場所」。植物はそこに生き残りをかけて勝負するのです。このニッチ戦略は軍事作戦や企業の事業展開にも応用できるよう体系化(=ランチェスター戦略という)されています。ランチェスター戦略についても以前まとめてますので、よろしければそちらもご参照ください(リンクはこちら)。

そして、攪乱される場所に敢えて身を置いて、変化に適応することで今の地位を築いているのがあの雑草なのです。

雑草は逆境を利用する

雑草は他の植物が生活しにくい人為的、または自然的に攪乱が頻繁に起こる場所(土が掘り返されたり、刈り取られたり、はたまた水に流されたり…etc)に生息しています。

普段気にも留めないと思いますが、雑草がどこに生えているか、改めて思い浮かべてみていただきたい。

歩道の脇、公園の花壇、空き地、土手、畑などなど思い返せば様々なところにいたことでしょう。

散歩道などによく生えているオオバコ(下図)という雑草は踏まれるところで力を発揮しています。緑が生い茂る公園で、人が頻繁に立ち入る獣道のようになっている場所には必ずと言っていいほど、このオオバコがいます。

オオバコの葉は柔らかく、筋がしっかりはいっていて、地面に近いところに葉を茂らせるので踏まれても千切れにくい構造になっています。さらに雨が降ると種子部分から粘着質の物質が分泌されるという特徴があり、靴やタイヤなどに踏まれると貼りつくのです。他者の機動力をうまく利用して別のところに種子を運ばせることで同じような環境に生息地を拡大させます。

植物にとって頻繁に何者かに踏まれる場所は生存が阻害される場所で良いことなんて一つもないように思えます。しかし、競争力が弱く緑がたくさん生い茂る場所では淘汰されてしまうオオバコは“人に踏まれるという逆境”を自分の得意な場所として生き残った雑草です。

雑草はしぶとく強い生き物という誤解

雑草魂という言葉はご存じだと思います。雑草と聞くと逞しさ、しぶとさと言ったような生命力の強さを表すような印象がありますが、実は雑草はものすごく弱い生物ということは意外と知られていません。

他の植物との競争力では負けてしまうし、ストレスにも弱い。だからこそ、変化が頻繁に発生する危険地帯に敢えて身を置き、生きることを選択したと言えます。そんな変化に対応するために進化を遂げた雑草から学ぶことは非常に多い。

雑草のスタンスを一言でいうと、「変えられないものは受け入れる。変えられるものを変える。」です。植物の変えられないものとは、今いる場所とその周辺の生育環境、変えられるものは自分自身です。

まずは変化のスピードに注目していきたい。植物の中でも雑草は可塑性がとても大きい。可塑性とは生物の変化できる能力の多寡のことを言います。バスケットボール選手になりたいから身長を何十センチも大きくさせるなんてことは人には難しいが雑草にはそれができるのです。

普段数センチで花を咲かせる雑草が、同じ種であっても他の植物と競り合って3~4メートル背丈まで成長させることがあります。世代交代による変化ではなく、環境に適応して自分自身を大きく変える力を持っているのです。

次に変化に対応するための多様性を見ていきたい。これが雑草のしぶとさや逞しさ、しつこさの所以だと言えます。

ひっつき虫として揶揄されるオナモミ (下図) という雑草は、実をあけると種子が二つ入っています。一つは早く芽を出す種でもう一つは遅く芽を出す種。これは、単一条件下でのみ発芽をすると、種子が一斉に発芽した後に万が一生育困難な環境が到来した場合、その地域のその種が絶滅することになります。そのような事態を回避するため、敢えてばらつきを残していると解釈されています。

また多くの雑草が子孫を残す際には、耐寒性、耐暑性、耐乾燥性など個性がバラバラの特性を持った種子を作ります。何が正解か分からない状況下で生き残るためには多様性を重視する。決して自分の特性を下の世代に押し付けることはしない。

不測の事態に対応するために二の矢三の矢を持っておく。これが予測不可能な環境に対応してきた弱者ならではの雑草の戦略なのです。

雑草は立ち上がらないし、出来るだけ戦わない。

雑草が大切にしていることは花を咲かせて多種多様な種を残すこと。だから、雑草は踏まれても立ち上がりません。傷付いた体を修復させるのには膨大なエネルギーがかかりますが、それよりも種を残すことにリソースを割きます。種が残せないのは合理的ではないと考えるからです。

自らの強みを活かした場所で生えているのは結果論であり、たくさんの芽生え、自然淘汰を得て、自らの強みを発揮できる場所に身を置くことができた雑草のみが今その場所で生きながらえています。これらの進化を語る上でニワトリが先か卵が先かという議論にもなりかねませんが、私はむしろ多様性と変化という過程に注目したい。

冒頭に戻るが、コロナウイルスによって人の移動や接触に対して、新しいルールが加わったことで、航空業も鉄道業も飲食業も旅行業もたくさんの業界が現在進行形で影響を受けている。

多ければ多いほど、大きければ大きいほど、早ければ早いほど、安ければ安いほど優れている。特定の環境や状況で価値が評価されることはあるかもしれないが、単純な価値基準で、安易にその価値を妄信してしまうことはとても危険だ。ルールが変われば簡単に崩れてしまうし、我々は今まさにそんな時代に直面している。

切られる、踏まれる、引っこ抜かれる、流される、掘り返される。そんな予測不可能な環境で雑草がよりどころにしているのが多様性と変化である。

変えられないことは受け入れる、変えられるものを変える。そんな道ばたにある雑草から今こそ学びを得る時なのかもしれない。

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