疫病対策はまず“正しく恐れる”ことから|新型コロナウイルスについて(2020.4.8時点)

疫病対策はまず“正しく恐れる”ことから|新型コロナウイルスについて(2020.4.8時点)

昨年12月、中国・武漢にて発生した原因不明の肺炎。翌年2020年1月9日に世界保健機関(WHO)の声明により「新型コロナウイルスによる新型肺炎(COVID-19)」として認知されたその病理は、今や我が国はもちろん全世界に波及し猛威を振るっています。

ペスト、天然痘、麻疹、コレラ、インフルエンザ、結核などなど…
人類はこれまでに数々の疫病に見舞われてきましたが、この規模のパンデミックは1918-1919年のスペイン風以来、つまり100年ぶりになります。そのため、誰もこの規模の疫病を経験したことがありません。私たちは今、教科書の記載のみでしか知りえなかった大規模な厄災にまさに直面しています。

当然ですが、疫病の原因であるウイルスや菌は肉眼で確認することができません。

目に見えない何かにジワジワと蝕まれていく恐怖は、歴史や御伽噺で見聞きしていた通りの…いえ、ひょっとしたらそれ以上に大きなストレスを私たちに与えるものでした。その証拠に世界各国では、先進国と呼ばれる比較的理知的な国々と評される地域でも、戦時中と見紛うほどの混乱と、それに伴う異常行動が散見されています。

この未曾有の疫病の発生からこれまで至る所で発せられてきた言葉ではありますが、正体のわからないものとは必要以上に恐怖心を抱いてしまうもので、正確な情報を収集し“正しく恐れる”ことが最も肝要です。

現在、「新型コロナウイルス」についての情報は日に日に、それこそ指数関数的に増加しており、その真偽を確かめるだけで一苦労です。また、この情報拡散社会では“いかにセンセーショナルであるか”が伝播の鍵であり、エビデンス(根拠・証拠)やそれに伴う信憑生の有無はあまり評価に直結しません。

4/5の日経新聞で「情報パンデミック」という題名の記事が出されましたが、デマの拡散すら問題になる程です。ちなみに新型コロナウイルス関連の情報拡散力はSARSの68倍という凄まじい値を叩き出しているそうです。

個人的な備忘録の域をでないかもしれませんが、今回は“正しく恐れる”ための正しい情報をまとめていければと思います。
誰でも読みやすいよう、極力シンプルに表現できるよう努めましたので、お付き合いいただければ幸いです。

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新型コロナウイルスについて知るべきこと——–

2009年に公開された「感染列島」というウイルスによるパンデミックを扱った邦画の作中で、感染症の全貌を明らかにするための“4つのポイント”について言及される場面がありました。フィクション作品からの引用を不謹慎、不適当だと感じられる方もおられるかとは思いますが、この捉え方が個人的にかなり分かり易くしっくりきたので、今回はこの方針で情報を整理していこうと思います。

一部意訳しますが、

①それは何か・・・ウイルスの正体
②それは何をするのか・・・感染症が引き起こす症状
③それはどこから来たのか・・・感染の経路
④それをどう殺すのか・・・終息方法と治療法

この“4つのポイント”を埋めていくことで、感染症の全貌を掴むことができます。



①それは何か(ウイルスの正体)

「新型コロナウイルス」とその名の通りコロナウイルスの新種です。

そもそも「コロナウイルス」とは、今回の新型コロナウイルスも含め、哺乳類や鳥類に発熱や上気道症状を引き起こすウイルスのことを指します。コロナウイルスはこれまでに6種類が発見されていて、そのうちヒトに蔓延しているものが4種、動物から感染する重症状肺炎ウイルスが2種知られています。

後者の重症状肺炎ウイルス2種、2003年に中国広東省を起点に流行したSARS(サーズ)コロナウイルス、2015年に中東や韓国で流行したMERS(マーズ)コロナウイルスはよく知られていますが、私たちが日頃「風邪」と呼んでいる症候群の原因もこのコロナウイルスの一種が引き起こしている感染症です。

コロナウイルスの種類

詳細は省きますが、コロナウイルスはRNAという染色体の形質上、非常に変異し易い特性を持っており、上記のように様々な変異型が生まれています。そのため死滅させることは不可能に近く、実際HCoV(一般的な風邪の原因となるコロナウイルス)はもちろんSARSやMARSも、私たち人類が長い期間を想定して付き合っていくべきモノとして認識されています。

そして2020年3月時点で既に「新型コロナウイルス」でも、S型とL型の2腫の存在が報告されています。S型はコウモリ由来の古くからあるもの、L型はS型の変異型とみられています。両者の毒性や感染力の違いについてはまだどれも推測の域を出ず、明言はされていません。

コロナウイルスの構造的弱点

コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じくエンベロープという脂質性の膜が核を守っている構造になっていて、この膜を壊すことができるアルコール消毒が有効であることがわかっています。

また、「人間の体外での生存能力」という議題を目にしたことがあるかと思いますが、基本的にウイルスは宿主の体外では長く生存できません。ただし、どういう条件でどのくらいの期間生存するかの具体的な数値は未だ明らかになっていないようです。

過去医学誌などに掲載された研究結果によると“SARSコロナウイルス”の場合

  • 空気中で3時間
  • 銅の表面で4時間
  • 段ボールの表面で24時間
  • プラスチックの表面で72時間
  • ステンレスの表面で72時間

という基準が示されています。

しかし一方で、金属やガラス、プラスチックの上で9日間生きられる。一部のウイルスは低温状態で28日間生きられる。という見解もあり、今回の新型コロナウイルスにどの程度の生存能力があるのかは不明です。

気温や湿度に関する問題も同様で、一般的にコロナウイルスは高温多湿の環境下で早く死滅する(風邪が日本の夏場に流行しにくい理由)のですが、SARSコロナウイルスは56度以上の環境で15分に1万が死ぬ程度だということで、比較的高温多湿に強い性質を持っています。

そして、国際ウイルス分類委員会(ICTV)によると、「新型コロナウイルス」はSARSコロナウイルスの(直接の子孫ではないものの)姉妹系統に分類できるとのことです。それゆえ、新型コロナウイルスの正式名称は「SARSコロナウイルス-2」となっています。

この事実が具体的にどういう意味で、どう繋がってくるのかは、申し訳ありませんが私の手に負える範疇を超えてしまっているので明言できませんが、あくまで可能性として「新型コロナウイルス」の生存力もSARSコロナウイルスと近い性質を持っていると想定するべきかもしれません。

②それは何をするのか(病態・症状)

新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患は、COVID-19、新型コロナウイルス感染症、武漢肺炎、中国肺炎などと呼ばれています。症状は、その名の通り他のコロナウイルスと同様に呼吸器に現れます。

症状

もっとも大きな特徴は、症状の重軽の幅広さにあると言えます。また、感染しても症状が出ない場合があり、PCR検査でも検知できないことが少なくない確率で起こります。

発症する場合、初期症状では喉の痛みや咳、発熱や倦怠感など通常の風邪のような状態になります。多くの症例はこの段階で報告されています。

人によっては鼻づまりや頭痛、下痢、消化器系や神経系の症状が生じることもあり、食欲不振や味覚嗅覚に異常を覚えることもあるらしいですが、この件に関してはエビデンスがまだ不足してるため「新型コロナウイルス」が要因であるとはまだ言い切れません。

この初期症状の段階から軽快することもありますが、軽快できない場合、重症化します。

重症化すると、肺炎を発症し呼吸が苦しくなる「呼吸困難」の状態になります。また、気管支炎や上気道炎などの合併症をきたす場合もあり、高齢者や持病を持つ人を中心に致死率も高いです。

致死率

致死率は国や地域により異なります。先月下旬あたりの古いデータですが、

  • 全世界・・・4.2%
  • イタリア・・・10%
  • 武漢・・・4.5
  • 日本・・・2.2%
  • 韓国・・・1〜1.5%
  • ドイツ・・・0.5%

と、なっています。

また、年齢に関わらず感染者の約半数は無症状という報告もありますが、こちらもややエビデンスが足りません。心不全という死因に関して、心臓にも感染するのではと言われていますが、こちらもエビデンス不足です。

最も危険視されている特性は、感染後に症状が出るまでの期間(潜伏期間)のバラツキです。1日で症状が出る場合もあれば17程度期間が空くこともあります。平均は7日となっています。

③それはどこから来たのか(感染の経路)

由来となる宿主は現状では、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルス同様、コウモリとの推測が有力視されています。発生地域は、中国湖北省の武漢という名前が多く報道されていますが、真偽は明らかになっていません。

コロナウイルスは通常、様々な動物の間で循環しています。例えばSARSコロナウイルスの場合はウイルスに感染したジャコウネコ、MERSコロナウイルスの場合はラクダとの接触により人間に波及しました。そのため、今回も多くの動物を扱っている武漢の市場で、ウイルスに感染したナニモノかとの接触が始点であるとの見方が強まっていますが、根拠となる調査報告はありません。

感染経路

現在確認されている経路は、

  • 感染者の唾液による飛沫感染
  • ウイルスが付着した物質に触れることによる接触感染
  • 感染者の呼吸などによって放出され、空気中に漂うウイルスを吸い込むエアロゾル感染

の3つが上がっています。

最後の「エアロゾル感染」に関しては、3月に報告されたばかりなので、さらなるエビデンスが必要な情報ですが、米国研究者の実験によると、エアロゾル(飛沫よりももっと粒子が細かい状態)で、少なくとも3時間程度は空気中に漂い続けるということが確認されたとの報告があります。

感染力

新型コロナウイルスの感染力は𝑅₀(アールノート)という値で示される数値で、暫定値としてR=1.4〜2.5(1人の感染者が1.4人〜2.5人に感染させる)と推定されていますが、未だ確定されていません。

過去の疫病の𝑅₀は、

  • インフルエンザ・・・R=1.4〜4
  • エボラ出血熱・・・R=1.5〜2.5
  • SARSコロナウイルス・・・R=2〜5
  • 風疹・・・R=6〜7
  • 麻疹・・・R=12〜18

「新型コロナウイルス」の𝑅₀値はSARSコロナウイルスよりも低く、決して高い数値でないという評価がなされているようです。

ただし、世界各国で発生が報告されている集団感染(クラスター)事例や、通常よりも強い感染力を持つ感染者(スーパースプレッダー)の存在から、季節性インフルエンザよりも高い感染力を有する可能性も高い確率で示唆されています。

また「新型コロナウイルス」は、SARSコロナウイルス、MARSコロナウイルスと異なり、無症状でも他者に感染させる場合があり、感染経路の追跡が非常に難航しています。

そしてその特性は極めて危険視されており、感染後に症状が出るまでの期間(潜伏期間)のバラツキ(1日で症状が出る場合もあれば17程度期間が空くこともある)やPCR検査での結果の不確実性も相まって、感染経路の特定に致命的な混乱をきたしています。

④それをどう殺すのか(終息方法と治療法)

疫病の正体がウイルスならば、終息のためには「根絶させる」か「全員が罹患し抗体を得る」の二通りしかありません。

ただし上述の通り、ウイルスを根絶させる方針は極めて難しく、現実的ではありません。その証拠にSARSコロナウイルスもMARSコロナウイルスも未だに存在し続けており、毎年罹患者を増やし続けています。

そのため此度のパンデミック(感染拡大)を終息させるには人類の多くが抗体を獲得する必要があります。

では感染は避けられず、一部の重症化事例に自分も当てはまってしまうのではないかと怯え続けなければいけないのかというと、ワクチンのない現状では残念ながらその通りと言わざるをえません。

ワクチンについて

ワクチンとは、感染症の病原体から毒性を抜き、あるいは毒性を抑え、体内に投与することによって症状を伴わずに抗体を獲得することができる医薬品療法です。これが完成すれば、かなり低いリスクで擬似的に感染することができるため、現在急ピッチで開発が進められています。

しかしワクチンに限らず医薬品の実用化には相応の時間を要します。
先月の3月3日に米国立アレルギー感染症研究所から発せられたコメントでは「ワクチンを使えるようになるまでに少なくとも1年半はかかる。しかし本当に1年半でできれば最短記録だ。ほとんどのワクチンは市場に出るまでに5年から15年かかる」とあります。

今回は、全くゼロからのスタートではなく、SARSコロナウイルスのワクチン開発での研究をベースにできるため、通常より早く開発できるとの見方もあります。その他にも世界各国から様々な見解が寄せられていますが、いずれも続報を待つしかないステータスに変わりはありません。

感染拡大速度の鈍化

ワクチンが実用化されるまでに相応の長期間がかかるとすると、それまでに感染してしまった罹患者の中からは相当数の死者が出てしまうことになります。

残念ながら、ほとんど手の施しようもない症例も報告されており、それを全て回避することは不可能です。重ねて、現状発現している医療リソースの不足という問題により、落とさずに済んでいたはずの命も救えないというケースも少なくなくなってきました。

当たり前ですが、病床数にも医療従事者にも上限があるので、一度に診られる患者数には限界があります。

医療リソースのキャパシティを超えると、死亡率が10倍に跳ね上がるという見解もあり、一度に治療する患者数を常時一定以下に抑えることが現状喫緊の課題となっています。

その最悪のシナリオを回避し、なるべく傷を浅く保つため我が国で発足された機関が「専門家会議」であり、そこで立案された方策が「クラスター対策」です。

この詳細に関しては、分かりやすく解説されているブログ記事がありましたので、そちらも合わせてご確認いただければと思います。
専門家会議の「クラスター対策」の解説 ――新型コロナウイルスに対処する最後の希望

一次情報を常に確認しましょう

最後に、一次情報のリンクをまとめます。

厚生労働省 新型コロナウィルス感染症について

首相官邸 新型コロナウィルス情報

新型コロナクラスター対策専門家ツイッター

現在、新型コロナウイルスに感染しない完全な予防法はありません。手洗いやうがい、消毒やマスクの着用に一定の効果は期待できますが、それらに完全な安全を保障するエビデンスはまだありません。
そのため最も効果が得られる対策は、なるべく他者と接さないことになりますが、なかなかやりきれることではないと思います。

では何ができるのかというと、今は爆発的な感染拡大を個々人の意識で抑制していくしかないというのが現状のようです。

3月28日に政府より「3つの密」、密閉・密集・密接が集団感染を引き起こしているという旨の発表がありました。

出典:首相官邸HPより

このような条件の場所には近寄らないのが、まず第一に肝要です。
今は政府の方針に従い、一人一人責任意識を持って、感染拡大の鈍化を目指すべきかと思います。

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