学校では教えてくれない“デザイナーの質”を大きく左右する“聴く”力

学校では教えてくれない“デザイナーの質”を大きく左右する“聴く”力

突然ですが、デザイナーの主たる仕事とはなんでしょうか?

デザイナーと名のつく仕事は世に数多あります。ウェブデザイナー、プロダクトデザイナー、ファッションデザイナー、他にも書き出したらキリがないほど多くの種別がありますが、そのどれもが「デザイナー」という単語の頭に“創るモノ”──成果物が頭につきます。

つまり、その人が一体何を創るデザイナーなのかがネーミングの基礎であり、自己紹介の際も「自分はこういったものを創る者です」といった意図で肩書きを名乗ります。

このことからも分かる通り、デザイナーの主たる仕事は一見“創ること”のように思えます。

というか、ほとんどの人がデザイナーの仕事を“創ること”と捉えており、それは学校教育の現場でも例外ではなく、デザイナーを志す人たちへの教育は“創ること”に大きく傾いている現状があります。

“創る”技術の習得に偏った学習

デザインの学校教育ではよく、「引き出しを増やせ」「センス(美的感覚)を磨け」といった指導がなされます。

引き出しというのは、表現技法の幅経験としてストックしておく前例を懐に積み上げていくこと。センスというのは、極めて曖昧な尺度にはなりますが、この場合、反復練習によって習得できる適切なバランス感覚とかそういったことになるでしょうか。

私の推測になりますが、これはデザイナーが絵描きだった時代の名残なのかなと思っています。例えば絵を描くとき、一度描いたモチーフは二度目三度目には、飛躍的に労なく描くことができるようになります。

絵を描く際に重要なことは“観察”であり、それは幾度にわたる紙面上へのデッサンで効率的に習得することが可能です。恐らくですが、その慣習が現代のデザイナー教育においても方法論として引き継がれているのでしょう。

専科が細かく分かれる大きな美術系大学や美術系専科のあるマンモス大学などではまた別ですが、デザインの教育を扱う専門学校では、そういった学習方法への偏重が顕著な印象があります。

こう書くと、あたかもその方法が現代に合っていない古臭いもののように批判しているように見えるかもしれませんが、それは誤解です。そのような反復練習も極めて大切なこと。怠るべきではありません。

ですが、あまりにもそれ一辺倒になってしまうのは、些か勿体ないという思うのです。

デザインの質を決定づける本質的な要因

先述しましたが、デザイナーの仕事は“創ること”と認識されています。それは、デザイナーを志す学生はもちろん、すでにデザイン業務に従事している人の中でもマジョリティな考え方です。

そうなると、デザイナーとしてのスキルアップに用いる学習は、クリエイティブソフトを使った表現の訓練だとか、美しいデザインや美術を鑑賞することとなります。私自身、学生時代から新人~中堅あたりまでは、Adobeアプリケーション関係の教則本とかデザインの事例が載っている雑誌とか、そのあたりを教材としていました。

これは学生時代の指導内容から派生している認知によるものであり、むしろそれ以外なにを学習すれば良いか、にわかには思いつきません。

どうも含ませた言い方をしてしまいがちですが、デザイナーの仕事の業務比率で言うと、その大半は“創ること”に割かれています。

私自身の感覚値で言えば、一つのプロジェクトでデザインを創る業務比率は5~6割を占めていますし、オペレーティング業務が主な新人なら9割以上がそうなるでしょう。なので、そこのクオリティや効率を上げることはもちろん正しいことです。

けれど実際、デザイナーの質や生み出されるデザインの質を決定づける最も大きな要因は「適切な目的」の設定にあります。

「適切な目的」とは?と言う疑問は脇にやり、Adobeの教則本やデザイン雑誌で、その疑問を解消することができるかと少し考えてみてください。

そこに、デザインの引き出しを増やすことやセンスを磨くことと同等に鍛えるべきデザイナーの素質が眠っています。

質の高いデザイナーになるために身につけるべきこと

現場に出ると、デザインを創る技術──魅せる技術は専門家として持っていて当たり前という前提で話が進みます。少なくともクライアントはそう思って相談にやってきます。

これは、ある意味“成長過程に投資してもらえる”アートの世界と対比して考えてみるとよくわかるでしょう。

そこで“創ること”の技術を磨いているというのは言わば当たり前のことであり、あえて口に出すことでも、自信を持つポイントでもありません。デザイナーであれば皆やっています。むしろそこを怠っていれば減点です。

ではそれ以外に一体どういった技術・知見を身につけるべきなのでしょうか。

例えば、人間工学心理学の知識。あるいはマーケティング、できればビジネスモデルについての理解があるとなお良いです。前者はデザインの根拠を強めてくれますし、後者は依頼の解像度を高めてくれます。

“創ること”の技術屋に過ぎなかった過去の働き方から、その役割を大きく拡張した現代のデザイナーにとって、技術醸成の他にも習得すべき学習余地は膨大にあります。

しかしあまりにも広く、求めればキリがなくなるのも事実。

もちろん、そのうちのどれか一つでも学習しておいて得られる恩恵は多大にあるので、興味のある端からはじめていって欲しいですが、まずはその全てにおいてベースアップできる共通のスキルとして、学生のうちから“聴く”力を鍛えておくべきです。

デザイナーの本領は「曖昧で膨大な捉えどことのない情報を取りまとめて、誰もが理解できる形に統合すること」にあります。

そのためにはまず、多くの情報を集める能力が必須。人間工学だのマーケティングだの、自らに知見が備わっていなくとも、その商材についての専門家であるクライアントやチームアップした他の専門家から“聴く”ことによって、統合に必要なピースを収集することはできます。

ビジネスとは一人でやるものではないのです。

デザインを“創ること”は、あくまで手段

デザインを“創ること”は手段でしかありません。

その手段を用いて何を達成するのか。
その前提条件の設定がおざなりでは、質のいいデザインは創れませんし、ましてやそれが無いなんてことであれば、デザインはただ眺めて愛でるだけの空虚になってしまいます。

クライアントは何を達成したいのか。
あるいは何を達成すべきなのか。
どんなユーザーに届いて欲しいのか。
どのようにユーザーに届いて欲しいのか。
その商材はユーザーにどんな便益を提供するのか。
その便益はユーザーのどんな需要と接点があるのか

etc…

当然ですが、これらはデザイナーが勝手に推測して設定することはできません。クライアントとの対話の中で、共同作業で紡いでいくものです。

集めた情報の中から規則性や類似性など共通点を見つけ、バラバラだった粒子を手に取れるように固めて物質にする能力も大切ですが、まずはその起点となる“収集”の段階を学習していきましょう。

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