デザイナーを志す君に知っておいて欲しいデザイン史

デザイナーを志す君に知っておいて欲しいデザイン史

デザイナーと一口に言っても、その仕事は多岐に渡ります。

グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、ファッションデザイナー、スペースデザイナーect…。昨今は更に細分化が進み、挙げればキリがありません。

デザインの業界に身を置いている、ないしは勉強している人ならまだしも、デザイン業をよく知らない人に「どんなお仕事をされてらっしゃるんですか?」みたいな素朴な疑問を投げかけられると「どう説明したものか閉口してしまう」なんてことも、デザイナーのあるあるネタとして酒の肴になるほどです。

私なんかは色々説明したい気持ちを押し殺して「平面的なものはほとんど何でも創っていますよ」と、事実に即した極めてシンプルな回答を用意していますが、それでも返ってくるリアクションといえば、「はぁ…(?)」のようなキョトン顔がほとんど。

仕事に関わる場面では一所懸命説明を続けますが、そうでなければ諦めて「ホームページとかポスターとかですかね」という、実際の業務内容から見ればごくごく表面的な紹介にとどめてしまいます。

なぜ、デザイナーという職業が──デザインという仕事がこれだけ一般に説明しづらいものになっているのか、この疑問をデザインの歴史をもとに紐解いていくと、不思議なことに、これからのデザイナーに期待されている『真の価値』または『培うべき能力』が見えてきます。

今回は(私の意訳を多分に含みますが…)デザイナーという職業が生まれた歴史を辿りながら、デザイナーに期待される仕事がどう拡張されてきたのか、あるいはこれからどう拡張されていくのか、紐解いていこうと思います。



デザインの歴史は意外と浅い

古代建築もデザインだろ!と言われてしまうと、デザインの歴史はイコール文明の歴史となるので、混乱してしまうかもしれませんが、ここでいうデザインはあくまで『現代デザイン』と規定されているものです。

そんなこんなで多少ややこしいんですが、『現代デザイン』──すなわち私たちがデザイナーと名乗るようになった起源を遡ると、それは産業革命に始まります。

『アーツ&クラフツ運動』と言えば、聞いたことのある人もいるかと思いますが、産業革命によって生産が工業化し、あらゆるプロダクトが“機械が大量生産しやすい”よう無味乾燥で粗悪なもので満たされ始めた時代に、そのアンチテーゼとして『現代デザイン』の概念は生まれました。

そう考えると、デザインの歴史は『アーツ&クラフツ運動』が始まった1880年代からの、たかだか140年程度ということになります。

当時のデザインが標榜していたものは、手仕事や職人の復権であり、デザインとは「装飾を施すもの」でした。

そこから派生し1900年代初頭まで大流行したのが、みんな大好きアルフォンス・ミュシャを代表する『アール・ヌーヴォー』であり、その言葉の意味──フランス語で「新しいアート」という意味が指し示す通り、その運動はデザインをアートにまで引き上げるに至ったのです。

『アーツ&クラフツ運動』に続き『アール・ヌーヴォー』と、産業革命によって損なわれた職人の地位復権を見事果たしたデザイン業界ですが、『アール・デコ』という新しいデザイン様式の誕生を経て、それまで特権階級にある一部の人のためのものだったデザインが、一般大衆向けに拡張されていくことになります。

目まぐるしく変化し拡張を続けるデザインの概念

『アール・デコ』を語る上で、切っても切り離せない出来事といえば、世界で初めてのデザイン学校『バウハウス』の誕生です。

『バウハウス』の理念は「芸術と技術の調和」であり、機械産業で実現できる芸術性を求める点において、それまでの工業製品へのアンチテーゼから一歩進んだ“新しいデザインの在り方”を形作りました。

これによってデザインの指し示す概念は、豪奢であったり芸術的であったりするアートに近いモノヅクリから、洗練されていることはもちろん大量生産が可能な、シンプルで機能的なモノヅクリに変遷していきます。

これまでが半世紀にも満たない、ごく短い期間に起こった出来事です。これだけ見ても、デザインという概念の目まぐるしい変化に面食らってしまいますが、ここからの変化は更に加速していきます。

それから二度の世界大戦を経た1950年代以降。アメリカでCI(コーポレート・アイデンティティ)デザインの概念が形成されていきます。

私が大好きなレイモンド・ローウィの時代です。これは余談ですが、同氏は私が生まれるちょうど1ヶ月前に逝去しています。そんなこともあってか、何となく運命を感じてしまっています。

この頃から、デザインの領分は「意匠・装飾を施す」から「企業・組織の想いや哲学をビジュアライズして伝える」今で言うブランディングデザインのようなモノにまで拡張されていきます。

また別軸では、1980年代から工業界でもデザインの概念が取り入れられ始めます。HCD ──Human Centered Design(人間中心設計)という概念の出現です。

当時の工業機械は、機械技術が中心のとても分かりづらいものでした。

例えば、メーターのUIひとつとっても、機械の構造から副次的に目盛を動かしたような、今見たら卒倒しそうなクオリティで、当時も読み間違いによるヒューマンエラーが問題となっていたそうです。

そんな問題を解決すべく、人間工学など人の認知の科学を応用して、人間中心にデザインしようという意識が芽生え始めたのです。この哲学は1999年に、ISO13407として規格化され世界中に発行されました。

そして今、私たちが生きる21世紀。

スマートフォンの登場から、HCDのデザイン哲学が、UX(ユーザー体験)デザインと形を変え、もっと広くあらゆる分野で爆発的な広まりを見せています。

現代社会が必要とするデザインのプロセス

きっと、一般にある『デザイン』という仕事の認識は、この歴史の中でせいぜい100年前、『アール・デコ』あたりで止まっているのではないかと思います。

しかしその実、実際に私たちデザイナーが受け持つ役割は、1950年代以降これだけ飛躍的に拡張されているんです。

職人の復権から始まったデザインは、工業の大量生産技術との調和を経て、マーケティングやブランディングへと枝葉を伸ばし、人の幸せに寄与する哲学にまで発展してきました。

その潮流は、2018年に日本の経産省と特許庁から合同で発布された『デザイン経営宣言』からも見てとれるように、企業経営にまで求められるようになってきています。

さて、それでは今後のデザインは、更にどんな風に広がっていくのでしょう。

今世界では、社会や環境における問題解決に『デザインのプロセス』を活用しようという大きな流れが起こっています。

『人』を中心に広げ深めていくデザインの思考プロセスは、デザインの哲学は、これからもその役割を社会に期待され続けていくのだと思います。

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