SDGsで吹く、これから10年の日本へ追い風となる新たな経済ルール

SDGsで吹く、これから10年の日本へ追い風となる新たな経済ルール

先週、日本経済新聞で非常に興味深いニュースが公開された。

東芝が、なんとCO2(二酸化炭素)から燃料を取り出す技術を開発したのだと言う。東芝はこれを「CO2資源化技術」と謳っており、CO2をCO(一酸化炭素)へ変換することで、ジェット燃料やプラスチックなどの化学品原料として転用できるのだとか。

2020年代後半の実用化を目指す、というのが現在のステータスであるが、これが実現できれば脱炭素社会へ大きく近づく。しかも、CO2を出さないのではなくリサイクルするという、これまでの常識を覆す発想でだ。



日本の背中を押す新しい風

近年、世界中で環境配慮への気運が高まっている。

始まりは1997年の京都議定書、その後2015年にパリ協定に後継され、温室効果ガス削減が、国際的な取り組みとして一際注目を集めている。これはご周知の通りだろう。

地球温暖化、温室効果ガスと聞くと、「なんだかキナ臭い」と感じる人も少なくないかもしれない。温暖化の原因はまだハッキリわかっていないだとか、一部の利権団体が金儲けのために利用しているだとか、10年ほど前にこの種の言が流行したことも記憶に新しい。

私は専門家でないので詳しいことはわからない。もしかしたらそうなのかもしれない。いやきっと恐らく、そういった側面もあるのだろうと思う。

しかし、今回重要なのはそこではない。

脱炭素を実現したところで、根本解決には至らないかもしれないが、大事なのは今現状で、原因としてそこに疑惑が上がっている、ということだけだ。その疑惑に対して国際的に取り組もうと足並みが揃い始めているということだけなのだ。

実際、現在の経済界では環境や社会に配慮する企業へ資本が集まっている。ESG投資などは最もわかりやすい。

これは、国連が定める国際目標であるSDGsの影響が大きい。SDGs(持続可能な開発目標)では、17の世界的目標、169の達成基準、232の指標が公布されている。

内容に関する賛否は、地球温暖化の真偽と同様脇へ置いて、これが一体どのように日本にとって追い風になるのかと言うと、それはSDGsを新しい経済のルールと捉えると理解できる。

波に乗れなかった前回のゲーム

90年代以降、我が国は世界経済から大きく遅れをとった。

イノベーションは起こせず、経済成長は止まり、情報技術革新──IT経済から始まった新しいルールのゲームに完全に乗り遅れた。失われた30年とは、よくも言ったものだ。

IT経済というゲーム。振り返ってみれば、そもそも日本企業にとって、極めて不得手な分野だった。

このゲームのルールは、フリーミアムのビジネスモデルが根本にある。フリー、つまり無料で広く提供して、そのうち有料の拡張機能でマネタイズする、といった仕組みだ。

言わずもがな、このモデルで事業をスケールしていくには、一も二もなくとにかく母数が必要になる。だが、言語の壁のある日本では、国内で運転していくのならまだしも、やはり世界企業と戦うには厳しい。

さらに言うと、日本ではこの手のベンチャービジネスで資金調達できる額が極めて低い。その結果、初動は結局こじんまりスタートするしかなく、かといって大きな企業は冒険に慎重なため、ゲームに参加すること自体に腰が重い。

もしかしたら、平等を好む倫理観も邪魔をしてしまったかもしれない。フリーミアムのような、一部の課金ユーザーが無課金ユーザーを養うシステムに対する心理的ハードルが、初動を鈍らせた可能性も否定できない。

フリーミアムとはやや異なるが、GoogleやFacebookなど個人情報の収集で収益化するモデルも、日本人の倫理観では、思いついても実行し難いだろう。

フリーミアムにも個人情報を抜き取られるのにも慣れきってしまった今現在は別として、そんな新しすぎる収益化モデルの先駆者になるために、日本という国はあまりにも不利だった。

単一民族国家のため連帯意識が強く、一方で同調圧力も激しいこの国の社会では、このルールは難しすぎたのだ。

勝ち馬に乗る条件は満ちている

では、SDGs経済というゲームの中ではどうか。

SDGs経済のルールは、環境破壊や飢餓、教育、健康といった様々な社会問題の解消がゲームの勝利条件になる。

今までもCSR事業を通じた取り組みで、企業はこういった問題への社会的責任を果たしたり、問われたりしたことはあったが、そういった一部の補助的取り組みではなくビジネス本体、そのものが持続可能な社会に通じているかどうかが参戦条件だ。

このゲームの中では、上述のような言葉の壁による市場規模の格差が生じない。なぜなら価値のコアが開発技術であり、実用化さえしてしまえば自動で世界市場に立つことができる。

また、倫理観も邪魔しない。SDGsの目標がそもそも調和や平等という、極めて道徳的思想に根ざしているのだから問題にならない。こうなると、IT経済のゲームでは足枷になってきた強い連帯意識も、推進力に変わる。

加えて、この国には数多くの眠れる技術が蓄えられている。失われた30年と揶揄されている間、ただ指を咥えて世界経済を眺めていたわけではないのだ。

東芝の「CO2資源化技術」は冒頭で紹介したが、出光興業は今年「ブラックペレット」というバイオマス燃料の生産プラントを建設した。不二製油の代替肉「大豆ミート」、近畿大が完全養殖に成功したクロマグロ、岡山理科大学が開発した海水魚も淡水魚も同時に養殖できる「第3の水」は、世界の食糧問題を解決するかもしれない。

他にも、この国にはこれから目を覚ますであろう優れた技術が山ほどある。

そしてそれらは、これから始まるSDGs経済というゲームの中で、極めて強力なカードになる可能性を大いに秘めているのだ。

モノヅクリ大国と呼ばれ、経済成長を果たした日本だが、実は歴史上そこまで「発明」を得意としていない。一方で、日本企業は発明された技術がコモディティ化した後、それらをどう組み合わせるか、どう性能を高めるかといったベクトルには柔軟なクリエイティビティを発揮できる。

もしこのままSDGsが経済の新しいルールになっていけたのなら、強い連帯意識と高い集中力と根気が強みの日本企業にとって、非常に好ましい世の中になると期待している。

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