【Youtube切り抜き動画】流行の先のシナリオ

【Youtube切り抜き動画】流行の先のシナリオ

昨今、Youtube界隈で切り抜き動画が流行っている。

ことの始まりはひろゆき氏の生放送のLive配信。同氏の生放送は視聴者からのチャットの質問に対して、一問一答で答えていくスタイルで放送時間が数時間にも及ぶ。そこで、一部の有志が引きのある面白い部分だけを編集で切り取って、切り抜き動画としてアップロードし始めたのがきっかけだ。

今現在では数百もの切り抜きチャンネルが立ち上がり、多くの著名人が自身の動画の著作権フリーや切り抜き許可を宣言していたりと、切り抜く側と切り抜かれる側の新規参入が相次いでいる。

今回は、そんな切り抜き動画のトレンドがこれから先どうなっていくかについて書いていきたい。

Youtubeによる粛清

まず、第一に考えられるのは、Youtubeによる規制。

Youtubeのやりたいことは、ユーザーにとって価値のある動画コンテンツを集約し、再生数を稼ぎ、広告をたくさん見てもらうこと。タイトルやサムネは違えど、重複した内容の動画が複数あるのはユーザーにとって好ましくなく、切り抜きチャンネルの乱立が続くとユーザビリティは下がる。

切り抜き動画がYoutubeのガイドラインに抵触するとしたら、以下の行動のいずれかだろう。

・他のクリエイターから無断で複製したコンテンツを大量にアップロードする。
・同じコンテンツを 1つ以上のチャンネルに繰り返し投稿する。

切り抜き元から許諾を得ている場合には、他のクリエイターから無断で複製~は当たらないが、同じコンテンツを1つ以上~に関しては如何様にも解釈できるため、Youtubeサイドが本気になれば有象無象の切り抜きチャンネルをいつでも粛清できる状態にあるといえる。

とはいえ、Youtubeとしては、今回の切り取り動画の流行はイレギュラーといった類ではなく、これまで通りのアルゴリズムで粛々とやって自然淘汰に任せていくのだろうと考える。なぜなら、切り抜き動画はリコメンド機能ととても相性が良く、動画の再生数がたくさん稼げるからだ。

数十分ある動画で一度見たことがある場合には確実に即離脱するだろうが、数分の切り抜き動画であれば見たことがある内容でも、それに気付いて別の動画を探そうとしている時には最後まで見終わっているということが起こる。

Google検索でよくある、クリックして読み始めたら中身がないまとめ記事だった時の憤りに比べたら、短い動画という特性ゆえ、期待を裏切られた不満や怒りといったストレスも少ない。

現在の切り抜き動画の再生数を考えると著しく悪意や不正が認められない限りは、目くじらを立てて規制するということは考えづらい。

切り抜き元による粛清

現在、ひろゆき氏を始めとして、様々な著名人の切り抜き動画チャンネルが開設されている。ここまで広がった背景には、これまでの無断転載と違い、切り抜きされる側がメリットを享受できるようになったからである。それは、切り抜き動画の広告収益が切り抜き元にも分配される点にある。

ただし、それにはYoutubeの収益化条件の2つのハードルを超えなくてはいけない。

・直近12ヶ月の総再生時間が4,000時間以上
・チャンネル登録者数が1,000人以上

しかしながら、同じような切り抜きチャンネルが乱立していると登録者も再生数もバラける。

チャンネル登録するとしても一般心理としては、登録者数が最も多いチャンネル、もしくは上位のいくつかくらいだろう。となると、強者が勝ち続ける市場になり、収益化条件を達成できないチャンネルが多くなる。

こと、切り抜き動画に関しては、チャンネル名を確認してから見る人などおらず、サムネ+タイトル+再生数(人気度)でクリック、リコメンドでサーフィンしている人がほとんどだと思うが、登録者1000人未満の切り抜き動画が数十万回再生されても、収益化条件未達のチャンネルでは広告収入は1円も発生しない。

そのため、収益化できていないチャンネルで切り抜き動画を再生されるのは機会損失で、広告費を支払う必要がないYoutubeの一人勝ち状態になる。


また、再生数稼ぎを目的としたサムネイルやタイトルによる印象操作被害もある。先日、ラッパーの呂布カルマ氏がLive配信でのとある発言を、あたかも特定の人物に向けた発言だと思わせるようなサムネイル画像にされたと被害を訴えていた。

公式に許諾を与えていた場合は尚更だが、たとえ黙認だったとしても、恣意的に切り抜かれた動画が一人歩きして炎上した結果、切り抜かれた側にも責任を問うべき、という懲罰感情が沸き起こるのは想像に容易い。

切り抜きされる側がメリットを感じなければ。メリットよりデメリットが大きくなれば、当然ながら切り抜き動画の存在を許すことはしない。

Youtubeという土俵で戦う以上、プラットフォーム規制の影響も受けるし、他人のふんどしで相撲を取っているので、切り抜き元の一挙手一投足でも環境がガラリと変わる。そんな不安定な弱い立場にあるのは間違いない。

切り抜き動画が当たり前になった未来のシナリオ

もし、このままYoutubeが何の規制も掛けず、切り抜き動画市場が再生数を多く稼ぐ状態が続いた場合にはどうなるだろうか。

単純に要点だけを切り抜いた動画の提供価値は既存の切り抜きチャンネルで満たされているので、再生される→リコメンドに表示される→再生されるループを獲得したチャンネルに再生数が集中し、後発の参入はどんどん厳しくなる。

現在、ひろゆき氏、メンタリストのDaigo氏は全体の再生数は多いものの寡占状態で完全にレッドオーシャン。直近では、というよりもうすでに、切り抜きそのものの価値をピボットして数を打つフェーズ、すなわち切り抜きコンテンツの宝探しが始まっている。

ただし、ここで考えてなくていけないのは、単純な切り抜きだけで戦えるひろゆき氏やDaigo氏のようなお宝素材がまだ埋もれているのかという問題。

情報の体験価値は、「誰が」「誰のため」「情報そのもの」この3要素の掛け算で受け手の体験価値が決まる。

ひろゆき氏もDaigo氏もネット界隈では元々の知名度が非常に高く、発信する情報自体も広く視聴者が自分事として興味を惹く内容に終始している。

男女関係、仕事、お金、人生、政治宗教、時事、コンプレックスに纏わるトピックスなどだ。また、サムネイルやタイトルで表されているように動画内での言語表現も強い否定やネガティブワードを頻繁に用いて、心理効果に訴えかけている。

広く浅く視聴数を稼ぐ戦略では勝負ができないとなると、別のところを尖らせて狭く深く刺す他ない。だから、今後も切り抜き市場が活発化していくとなると、よりニッチを攻めるチャンネルが出てくるようになるはず。

インターネットメディアが乱立した中、 “ビジネスパーソン向け”と明確にターゲットを絞って今の地位を築いたNewsPicksのようにである。

後発だとしても、ひろゆき氏、Daigo氏の切り抜き市場に参入して、テーマやターゲットを絞る戦い方も出来なくはなさそうだが、短絡的で安易なポジショニングはランチェスター戦略でいうところの強者に真似されると簡単に競り負けてしまう。

また、絞りすぎると弾数が少なくなり、絞らなければ刺さらない。この塩梅がなんとも難しいところ。そして何より、テーマを一度決めてチャンネルを開設したら、それに沿った切り抜き動画しかアップロードできない宿命を背負う。

一度認知されてからテーマを変えることは難しいので、新規参入するのなら特定の個人やチャンネルに紐づくのではなく、広く汎用性のあるテーマにする、その代わりにターゲットを先鋭化させる。月並みだが、この掛け算が優位なポジション、独自性を築くのに適していそうだ。

あとは、切り抜き動画にどのような役割を担わせるのかも考えておきたい。パターンとしては2つ。

・完結型:収益のコンテンツとして単体でワークさせる。
・動画広告型:元動画に誘導するためのタッチポイントにする。

前者はこれまでのように第三者が切り抜き動画をアップしていく形、後者については、切り抜き元である自分が活動の一部として切り抜き動画を上げていく未来も十二分にあり得えそうだ。

投稿者自身が新規の視聴者層に向けたタッチポイントとして使うのであれば、単なる元動画の切り抜きではなく、動画の投稿前に見どころを軽くネタバレする映画の予告映像のような30秒~1分程度の切り抜き動画をアップするなんてこともあるかもしれない。

切り取り動画には日頃お世話になっているので、今後も注視して見守っていきたい。

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