子孫も残さない働かないアリが合理的な理由

子孫も残さない働かないアリが合理的な理由

かの有名な「働きアリの法則」はどこかで聞いたことがあるはずだ。

よく働くアリは全体の2割しかおらず、残りの8割はほとんど、もしくはまったく働かないアリ。よく働くアリだけを別にすると、そのアリたちもなぜか、よく働くアリと働かないアリに分かれるというもの。

ユダヤの法則やパレートの法則とも関連付けて、人間社会や組織論にもよくよく引き合いとして出されるこのアリの話。これだけでもへぇ~と思ってしまうが、今回はもうちょっと踏み込んで書いてみたいと思う。

これを読んだ後にはきっと周りの人に話したくなっているかもしれない。

なぜ働かないアリが存在するのか。

そもそもなぜ働かないアリがいるのか、何のためかというと「予測不可能性への対応」と考えられている。

巣の前にエサが突然落ちてきた。巣の中で崩落が起きた。巣穴が何者かに埋められてしまった。こんな時に全員がフルタイムで週7ずっと働いていたら、必ずどこかの仕事が回らなくなってしまう。

人工プログラムによるシミュレーションで、みな一斉に働く集団と一部が働かない集団で仕事量の比較実験をしたところ、前者の方が単位時間あたりの仕事量は常に大きく、労働効率が高いことが分かった。

みんな働いているのだから当然といえば当然。

しかし、そこに一定時間以上片付けられない仕事がある場合にはコロニーが死滅するという条件を加えたところ、後者の集団が長い時間存続することが分かった。

卵やさなぎの世話、食糧調達や巣のインフラ整備など短時間でもストップすると巣の存続に致命的なダメージを与える仕事が存在する。働かないものを含む非効率なシステムだからこそ、長期的な存続が可能になるのだ。

どのように『働かないシステム』を実現しているのか。

では、あの小さなアリがどのようにしてそのような卓越したシステムを実現しているのか、まず一つ目は階級間の行動習性によることが分かっている。

アリは女王アリを筆頭に交配するオスアリ、働きアリ、兵隊アリといった具合に階級間で仕事を分業しているが、とある種の兵隊アリは体が大きいのにまったく戦わないし、働かないことで知られていた。

ただ、なぜか兵隊アリを全体の8割以上の数にしてみたところ、普通に子育てをしたり、卵の世話をし始めたのだ。さらに詳しく行動を観察してみると、その兵隊アリは働きアリと出会うと違う方向に向きを変えるという性質があることが分かった。

働きアリが少ないと方向を変えることなく巣の奥の卵の部屋まで行って仕事をするけど、常に働きアリが動き回っているような巣の中ではうろうろする他ない。つまり、働かないのではなく働けないようにプログラムされているのだ。

また、二つ目は外部刺激に対する反応に個体差があるからだと考えられている。社会性を持つハチやアリといった昆虫にもどうやら個体差がちゃんとあるらしい。

遺伝的にこの個体差を調べたミツバチの行動実験がある。ミツバチは巣内を適温に保つために羽をバタつかせて風を送る行動があるのだが、複数の雄と交配させた巣と一匹の雄と交配させた巣で、巣内の温度帯にどのような差異が出るかを調べた。

すると、前者の巣は温度が上がる前に一部のハチが羽ばたきを開始して常時適温に保たれたのに対し、後者では限られた温度帯でしか羽ばたきを行わず、巣内の温度が適温に保たれなかった。

巣内の温度は幼虫の生育に密接に関わるため、遺伝的多様性が生存に有利であること、また、遺伝的要因が集団行動の制御に繋がっていることがこの実験で明らかになった。

では、一方でアリはどうかというと、その個体差が必ずしも遺伝的要因で決まっているかどうかまでは分かっていない。

仕事に対する感度が高いアリを集めたとしても一部で働かないアリが出てくるのは、その個体間には多少なりとも感度に差があると考えられるし、兵隊アリの例での行動の性質から見た仕事との出会いなど、複雑な要因が絡み合って労働配分をうまく制御しているのは確かだ。

とても不思議である。

子孫を残さない働きアリも実は合理的。

生物は自分の遺伝子を次世代に繋ぐために生きている。ところが、働きアリや働きバチは自らの子孫を残さずに一生を終える。これは自然界の常識に照らし合わせると非常に不可解だ。

これにも一応ちゃんと答えがある。

それは自らが交配して生んだ子供より、姉妹の方が遺伝的な繋がりが濃いからである。つまり、自分の遺伝子を後世に伝えるという点において、自分で子供を産むよりも、多くの姉妹の世話をして数を増やした方が効率が良いのだ。説明すると長くなるので、より詳しく知りたい方は「3/4仮説」で調べてみてほしい。

一部のアリが働かないのも、巣を存続させるために必要なシステムであり、子孫を残さずにせっせと働くアリも、決して他者のため自己犠牲で生きているのではなく、他者に尽くすことが最終的に自己の利益になる行動を取っているだけなのである。

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