コロナ禍の就活生にエールを。

コロナ禍の就活生にエールを。

社会人になってから、10年程度が経ったが、先日たまたま”就活”というワードを見かけた。

そうか、今年も就活が始まったのかと何の気なしにTwitterで動向を見てみようと、検索ワードに就活の文字を打ちこんだところ、サジェストに「死にたい」が出てきてハッとした。そして、同時に切ない気持ちになった。

昨年から続く、コロナウイルスの影響は当然新卒採用にも大きな影響を与えている。

前職では法人の営業部のマネージャーをする傍ら、新卒採用面談や新卒育成プロジェクトに携わり、年間を通してフィリピン人と中国人と日本人の新卒育成も受け持っていた経験のある私がコロナ禍で就活に立ち向かうすべての学生に敬意とエールを送りたい。

企業への就職は数ある選択肢の中の一つ

みんな就職活動しているから、家族も友人も先輩たちも周りのみんなもやってきた。周りからのプレッシャーがあるし、みんな就職するのが当たり前。大学に行ったらその後は企業に就職するという同調圧力はすごく強い。

じゃあみんなって誰なんだろう。それって実はすごい狭い視野で限りなく狭い環境で言われてることなんじゃないかとも思う。フリーランス、フリーター、政策金融公庫で新規事業融資を受けて事業を興す選択だってある。

企業で就職するということは、言い換えれば自分のリソースをお金に変える行為である。アルバイトやパート、個人事業主と比較して、社会的信用や厚生年金といった社会保障制度を十二分に享受できるというメリットもあるが、別に道なんてものはいくらでもある。

前提として会社に雇用されるというのは、数ある選択肢の中の一つだということをまず分かっていてほしい。そして、企業に新卒で入社することが自分の人生において優先度が高いことなのかを冷静になって考えてほしい。

自分には起業なんて無理だ。大学まで行ったのにフリーターや派遣バイトでは家族や周りからの評価や視線にとても耐えられない。消去法で正社員として雇用されるという判断をしても全然かまわないと思う。

ただ、なんで就職しなくちゃいけないの…なんて疑問を持ったまま活動していても、行動の理由を自分が納得できていないのだから、到底企業の採用担当者にそれを理解してもらうことなんてできない。

就職活動をする覚悟を決めたのなら

「就職で内定がもらえなかったらどうしよう…」
「内定がもらえたとしてもその会社に入社して本当に大丈夫なのか…」

このような悩みは尽きない。

視野が狭まってしまうのもとても分かるが、就職活動をするなら自分のことだけを自分視点でしか考えられていないところから脱却しなくてはいけない。それには、新卒採用という商習慣を俯瞰してみていくことだ。

新卒採用企業は数百万円~数千万円を掛けて新卒を採用している。ナビ運営サイトに出稿するには多額の媒体利用費用や人的コスト、通年で新卒採用人事の人件費、自社の採用サイトを作っているとそれだけでも数百万の制作費用が掛かる。新卒1人あたりの採用単価は小さく見積もっても数十万から時には数百万ととても高い。

それに加えて、サラリーマンの生涯年収は2億円前後と言われている。20年前30年前に比べると転職市場も賑わってきて、終身雇用制度の在り方が多少変わってきたとは言えど、定年まで働く可能性は決して0ではない。

採用の初期投資であなたを採用するまでにお金をかけて、長期に渡って2億円の投資をしようとしているのだから、1年未満だったり、数年でやめられてしまっては採用と育成コストが割に合わない。学生側と同じように企業の経営者も当然ながら失敗はしたくないと思うのが普通ではないだろうか。

また、採用担当者にあっても採用がうまくいかず、会社に損失を与えてしまったと評価が下がることもあるだろう。同僚や配属部署から今年の新卒は良くなかったなんて言われることもあるかもしれない。採用担当者も等しく失敗したくないと思っている。

あなたの人生が懸かっているように、企業も更なる成長のため、人や資金といった貴重なリソースを新卒採用活動に投資している。人格を否定されていると思ってしまうような質問の連打や、時には厳しい突っ込みが入ることもあるだろう。

しかし、視座を少し上げてみて、目の前にいる採用担当者やその企業の経営者の立場を想像してみると、あなたと同じように失敗に不安を感じ、失敗を嫌がっているということが分かる。

志望動機がない、やりたいことが分からない人へ

なんとなくという言葉はとても便利だ。普通に生きてきて、理由を聞かれると1秒くらい間を置いてふと口に出る言葉。それを言うとふーん、とそれ以上深く掘り下げられることは滅多にない。

感情で決めたことなんだろうけど、理由や論理を考えるのが面倒くさい。または、人に詳しく説明したとて、理解してもらえないだろうということを一瞬で判断して反射的に「うーん、なんとなく」と声に出てる。

「やりたいことが見つからない、志望業種なんてない」

文字通りなんとなく敷かれたレールの上を走って大学まで来てしまった人はおそらく就職活動で壁にぶち当たる。自分自身を納得させられる論理的な説明、自分自身がどういう人間なのか、自分の感情を言語化して来なかった人はきっとそうだろう。

どこかからトレースしてきた付け焼刃の取ってつけたようなテンプレの説明では、一貫性がなかったり、揺さぶって矛盾点をつかれるとすぐに頭が真っ白になり、とたんに慌てふためく。そんな経験をするとより自己嫌悪や自己否定に陥る気持ちもよく分かる。ただ、企業側も好き好んで追及しているわけではない。

あなたが1人暮らしを始める時に洗濯機を選んでいる状況を想像してもらいたい。国内海外の家電メーカーが沢山の機種を出している。

洗濯機には大きく3タイプあり、ドラム式、縦型全自動式、二層式だ。その中でも乾燥機能付、衣類が絡まりにくい、衣類が傷みにくい、掃除やお手入れがしやすい、大容量、使用水量が少ない、音が静か、壊れにくい、安い、などタイプや機種によって様々な特徴がある。

機能が多ければそれだけ価格が高くなったり、機能の搭載を極力抑えて安いことウリにしている機種もあるようだ。高機能や多機能と価格はどれもトレードオフだということが分かる。さて、あなたはどんな洗濯機を買うだろうか。

この時、大学在学中しか使わないから、とりあえず4年持てばいいやと、とにかく安い機種を選ぶという人がいるかもしれないが、一方で、洗濯物を干したり畳んだりという時間を勉強に使いたいから、時間を買うと思って、高いお金を出して乾燥機付きのドラム式洗濯機を買う人もいるだろう。

自分の置かれた状況を元に、必ず機能や価格を比較して商品を選択するはずだ。そりゃそうだ、安いといっても数万というお金を支払うのだから、買った後に後悔はしたくない。

これを採用担当者の立場に置き換えて考えてみてほしい。あなたが洗濯機を買う時と同じように、自社の理念や事業内容に合っていて、会社に貢献してくれるかどうか。採用することで自分たちにメリットがあるかどうかを比較検討するために色々な質問をしている。

すべての質問の答えに正解はないし、良いも悪いもない。会社に入れば分かるが、経理や人事といった管理部門や営業部、広報や秘書、システム部等々、様々な部署があり、仕事内容も人とのコミュニケーションの仕方も全く違う。どんなところで最大限パフォーマンスが発揮できるかなんて面接の段階でわかるはずがない。

質問の意図は、多少なりとも事前に準備や対策をしているか、どんな思考プロセスをしているのか、その人となりが自社に合っているかを問うている。質問の裏側をいつも意識してほしい。


もう一つ大事なことは、ビジネスでも人間関係でも一方にしかメリットがない、一方が無理をし続けている関係は必ずいつか破綻する、ということだ。

その会社が何を求めているか、それに自分が応えられるのか。入社することによって双方にメリットがあるのか。その会社はどこを向いて仕事をしているのか。日本国民、世界中の人々、従業員とその家族、ステークホルダー、誰を幸せにしたいと考えているか。自分たちや社会がどうあるべきだと思っているのか。

就活は恋愛や婚活と同じなんていう風に表現されるが、言い得て妙だと思う。

相手の良いところ、悪いところ、好きなところ、嫌いなところ、自分の良いところ、悪いところ、好きなところ、嫌いなところ。これらの共通点をぜひ見つける努力をしてみてほしい。

それが自分らしい他者にはない視点になる。

余談ですけど、ちょっとした心理学の話

ツイッターやSNSなどで苦しんでいる同志を探したり、自分よりうまくいっていない人を見てそっと胸をなでおろしたり、精力的な活動をしているSNSの投稿やグループ面接を一緒に受けている他の就活生を見て自信を無くしてしまったり。そんな不安定な時期にあるのは間違いない。

ただ、できるだけ、いや意識的に下を見ることはやめてほしい。下を見ればキリがないし、不安の種なんて一生尽きることなんてない。今は就活で頭がいっぱいでも社会に出て企業で働けばその時はその時で別の不安や悩みが必ず押し寄せてくる。

人のストレスというのは、大きく分けて2種類に分かれる。心理学的な言葉で、予測不可能性と統制不可能性というが、簡単に言うと、「先が分からないこと」「自分でコントロールできないこと」の2つだ

価値観の違い、そのストレスの元となる対象物や出来事の大小に個人差はあれど、この2つは人が誰もが抱えるストレスの根源的な要素といえる。そもそも内定をもらえるのだろうか、この先企業に就職してきちんと社会人としてやっていけるだろうか。就職活動なんてまさにこれに当てはまる。

ネガティブが人にもたらす影響は絶大である。

毎日暗いネガティブな話題ばかり見聞きすると無意識に、でも少しづつ、確実に、必ず精神に影響を及ぼしていく。そんな中で何ができるか、それは積極的に、可能な限りネガティブな情報に触れる機会をなるべく減らすこと、また、ストレスの要素となる予測不可能性と統制不可能性を排除することに尽きる。具体的なアクションを4つ紹介したい。

■自分でコントロールできない受動ストレスを軽減する
テレビやSNSを見ない時間を作る
ネガティブな人との接触を避ける
悲観的、批判的な発言を繰り返す人をSNSのフォローから外す、ミュートにする

どの情報を取得するかは、自分で選択ができます。今現在世の中で出回っている多くの不平不満や悲観的な声は、今のあなたにとって本当に必要な情報でしょうか。

■家の中を片付ける
家の掃除は、「生産的な行動であること」と「自分の行動を管理できること」で自己効力感を高める効果があります。予測不可能性の逆で、掃除には予測可能性があり、物事や自分をコントロールできているという感覚を与えてくれます(片付けをした結果、部屋が綺麗になる)。

■やることを決める、やらないことを決める
何もしない退屈な時間ができると、不安を感じたり、考え込んでしまう原因になります。本を読むでも、映画を見るでも、勉強をするでも、運動をする、ご飯をいつ食べる、求人企業を10社調べる。なんでもいいので自分で予定を作り、行動しましょう。

■適度に体を動かす
軽度な運動はセロトニンの分泌を高めることが分かっています。「セロトニン」は神経伝達物質で、精神を安定させ、ストレスを軽減させる働きがあります。※別名「幸せホルモン」と呼ばれています。

日光を浴びるだけでも効果があるといわれているので、気分転換にぜひ散歩でもして体を動かしてみてください。



内定を出すか出さないかは企業が決めることなんだから、そもそも学生側はコントロールできないじゃないか、とツッコミがくるかもしれない。

当然ながら、採用可否は企業が決めることだ。だが、どの会社にエントリーするか、選考に進むかどうか、そして、その内定を承諾するか否か、これらはすべて自分でコントロールできる。

就活中は特に他者の評価を気にしてしまう傾向が強くあるが、自分の人生の意思決定の主導権は常に自分にある。そう思って、就職活動に臨んでほしい。

企業はなぜ新卒採用をするのか

企業はなぜそんなに多額な資金を投じて新卒を採用するのか。私なりに以下の3つの理由があると考えている。

・時代の潮流を掴み続けるため。
・新しいフレッシュな風を会社に取り入れるため。
・新卒の育成を通して、教育をする社員も成長させるため。

いつの時代も若い人が中心となって流行を作っている。若い時にこそ気付かなかったが、若さは偉大であり、最大の武器である。企業は時代の流れに取り残されないよう、これからも存続していくために若い人材を必要としている。

あと、元気で若い人が社内にいるとそれだけで会社の雰囲気が明るく、華やかになる。これは嘘のような本当の話だ。

前職で諸般の事情があり、新卒採用活動を2年間休止した時があったが、その場に慣れている人だけしかいない社内は、どこか空気が滞留していたように思う。いわゆるマンネリといったやつなのかもしれない。

今年はどんな新卒が入ってくるんだろうかと期待に胸を膨らませるワクワクやドキドキといった感情が既存社員のモチベーションや会社の雰囲気に非常に大きな影響を与えることは間違いない。

何より、先に入社している2年目、3年目の先輩社員にとっては後輩ができることをとても喜ばしいと感じているはずだ。そして、教える立場になって始めて、自身を顧みたり、仕事の難しさ、楽しさに気付くはずだ。私がそうだった。

最後にもう一度言うが、企業への就職はあなたがあなたの理想の人生を生きるための一つの手段に過ぎない。

あなたを必要としている場所は必ずどこかにある。だから、希望と勇気を持って、どうか逃げずに立ち向かっていってほしい。

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