手書きが脳に及ぼす多大なメリット

手書きが脳に及ぼす多大なメリット

「目標は紙に書くと達成できる」

ビジネスパーソンであれば、こんなことを一度は聞いたことがある、ないし既に実践されている方も多いのではないだろうか。

目標を紙に書く、すなわち明瞭化することで、脳はその達成に必要な情報を自動的に収集するようになる。そのメカニズムは、RAS機能がどうのなど説明し始めるととやや長くなるので、世界中で様々な方が執筆されている書籍を漁ってみて欲しい。

とにかく、目標を明瞭に言語化することによって、脳はその達成に必要な情報に対して敏感になるメカニズムを持っている。故に「紙に書く」という行為は目標達成に多大な貢献をするのだが、ここで一つの疑問を抱いた。


ーーーー タイピングではダメなのか。


目標を明瞭化することが目的なのであれば、わざわざ紙に手書きで記さずとも、キーボードでディスプレイ上にタイピングした方が圧倒的に早い。些細だがコストも節減できる。

私は年始に一度決める長期目標とは別に、毎晩寝る前に「1ヶ月以内」「2ヶ月以内」「3ヶ月以内」の3つの期間に達成したい短期的な目標を書き出しているのだが、毎日のことなので正直タイピングで済ませたい。なんならメモ帳に羅列しておいて、わざわざ手帳を開かずともいつでもスマホで確認できるようにしておきたい。

しかしどんな書籍にも「手書き」という条件がついている。詳しい説明はないが、著者が皆口を揃えて「手書きで」と述べているが故に、その方法を踏襲せざるを得ない。

そもそも、「目標は紙に書け」と言われ始めた歴史は古く、有名なハーバード大学の調査は1979年。ジョセフ・マーフィーの関連本が流行り出したのはそこから更に10年程前だ。当時はパソコンなどなかったはず。

今回は、ずっと引っかかっていたのにしばらく放っておいていたこの疑問について、改めて調べてみたので、ご紹介しよう。

手書きでノートをとる学生の方が成績が良いという研究結果

プリンストン大学とカリフォルニア大学の合同研究チームは、大学生を対象に15分程度のTED(様々な講義をオンラインで視聴できるサイト)動画を5本視聴させる実験を行なった。視聴中のメモを一方のグループはノートにとらせ、もう一方はラップトップと分けて比較したところ、前者の方が良い成績をあげ、より長い期間に渡って記憶が定着していることがわかった。

ワシントン大学が行なった研究でも同様に、ノートにメモをとるグループとラップトップにメモをとるグループに分けて講義を行った。結果、講義直後に行われたテストではラップトップのグループがやや良い成績を残した一方で、24時間後に行われたテストでは、成績が逆転する現象が確認された。

このことから同機関は、短期的にはより多くの情報を残せるラップトップでのメモが優位に働くものの、記憶が長く定着し且つキーポイントを確実に覚えている傾向が強いのは手書きのメモだと結論づけた。

また、心理学者パム・ミュラーとダニエル・オッペンハイマーはこの現象について、手書きは理解したことや記憶をエンコード(記号化)しやすいようにする過程が含まれているため、記憶への定着率が高いと説明している。

MRIでわかったタイピングでは使われない脳の部位

教育心理学者のバージニア・バーニンガーは、小学生を2グループに分け、手書きとタイピングで作文を書かせる実験を行なった。すると、手書きのグループの子供達の方がより多く柔軟に書いたことがわかったと言う。

同氏は「手書きは脳神経の働きを活発にし、豊かな着想を生み出す」と語っている。

これを脳科学的なアプローチで解明しようとする実験もある。

スタヴァンゲル大学とマルセイユ大学の共同研究では、手書き中とタイピング中の脳の働きをMRIでスキャンするという実験を行なった。結果、手書き中のみ脳の言語処理に関わる「ブローカ野」が活性化する事が判明した。

この「ブローカ野」とは運動性言語中枢とも呼ばれ、喉や口などを動かし言語を発する役目を担っている。

一見記憶とは無関係に思えるが、以前このブログで紹介した記事「学習を飛躍的に効率化するMI理論」(ハーバード大学教授ハワード・ガードナーが提唱)にもあるように、学習に運動的知能を用いる有用性はかなり高い。

もしタイピングでこの機能が発揮されないのであれば、そのデメリットは計り知れなく大きい事と言える。

専門家も次のように述べている。

「メモを取ることは活動的なプロセスである」
(ハーバード大学の認知心理学者マイケル・フリードマン)

「体を動かして何かを行うことは、認知発達において重要な役割を担う」
(インディアナ大学の博士カリーン・ジェームズ)

「手書き」は脳により多くの刺激を与える

ネプラスカ大学の教育心理学者であるケネス・キエウラは、MRIなどを使用した脳イメージングの研究内容から、「何かを書き残すと言う行為は脳に興奮を与える事がわかる」と述べている。

また、人は書くことで、目にしたり耳にしたりしたものを記憶として残し、学習後の再収集に大きな力を発揮するという点で優れていると結論づける。

脳科学教育研究所の所長である桑原清四郎も、文字を書く行為には、指先を繊細に動かすという点で、脳がとても集中した状態になると提言している。パソコンのキーボードやスマホのフリック操作では、指先に繊細な命令をする必要がないので、脳への刺激を考えると「手書き」に勝るものはないのだそう。


どうやら、タイピングではダメらしい。


もちろんタイピングにもメリットはある。上で挙げたワシントン大学の研究では、短期的な記憶に限ってはタイピングがやや優位に立っているし、一定時間あたりに記録できる単語数も手書きに比べタイピングでは1.5倍ほど上がるという研究結果もある。

しかし、上記に挙げた様々な研究からわかるように、「わざわざ手書きで記す」メリットは、どうやら無視できないようだ。

思い起こしてみれば私自身、企画を起こす際など発想が必要な時は必ず、紙とペンを用意して手書きでアイディアを書き出している。これは誰に教えられたというわけではなく、経験上どうにもパソコン上では良い発想が生まれないからだ。

なぜだかはわからないが、そう結果が出ているので続けている習慣だったが、今回調べてみてその理由の片鱗も垣間見えた。

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