デザインでターゲットを決めなければいけないワケ

デザインでターゲットを決めなければいけないワケ

グラフィックでもプロダクトでもインターフェイスでもインタラクションでも、デザインを設計する際には、必ず「ターゲットは誰か?」という議論をすることになる。

これはデザイナーかノンデザイナーかに関わらず、製品やサービスの開発、またはそのセールスに携わる人間であれば必ず経験していることと思うし、当たり前の事として認識されているだろう。

しかし、なぜこれが当たり前なのかと問われて、正確な答えを持つ人は意外と少ない。

「ターゲットを明らかにしないとデザインの設計ができないから」
「ターゲットを絞らないと訴求力が弱まるから」

多くの人の認識はだいたいこの2点だと思う。

はじめに断っておくと、これは正解だ。

ただ、正解であっても説明たり得るかと問われると、あくまで結果を論じているに過ぎず、まだ得心できないのではないだろうか。
今回は、ターゲット設定をしないと、“なぜ”デザイン設計ができないのか“なぜ”訴求力が落ちるのか、この点を詳らかにしていく。



デザインのゴールは“感動”

私は、デザインのゴールを“感動”だと定義している。

一言に感動といっても様々な意味がある。一般的には「心が奪われる事」とか「喜びや興奮を覚える事」といった様なニュアンスで認識されていると思うが、この場合もっと広義に「感情が動く事」としている。

ではなぜ「感情が動く事」がデザインのゴールなのかというと、それは人の行動が実はとても強い力で感情に左右されているからだ。

この商品を買って欲しい。この製品はこういうふうに使って欲しい。

デザインの目的は常に「行動の喚起」にある。この認識に齟齬の余地はないだろう。そして、人の行動は感情によって引き起こされるのだから、デザインの照準は感情にフォーカスする必要があるのだ。

人の価値評価に感情が与える影響

ドイツのUX研究者マーク・ハッセンツァールは、人の価値評価形成に関わる二つのデザイン的属性モデルを紹介している。

一つは「実用的属性」
もう一つは「快楽的属性」

前者の実用的属性は、操作性など見たままの意味。そのモノの性能を解釈して形成される評価だ。
後者の快楽的属性は少し複雑で、ハッセンツァールは「刺激・同定・喚起」と三つの要素で定義している。つまり、刺激的であるか自分らしさを示せるか気持ちが呼び起こされるか、という基準だ。

この二つの属性を合わせたものが、その製品やサービスの表出した性質として価値評価の材料となるのだが、見てもらってわかる通り快楽的属性は、とてもじゃないが論理的とは言い難い判断基準なことがわかると思う。

そのため、人はしばしば非論理的な購買行動をとったりする。これは皆さんもなんとなくご経験がおありなのではないかと思うがいかがだろうか。

性能的には劣るが、より自分らしいデザインの製品を選んだり、逆に完璧にニーズを満たしているのに女性向けにディスプレイされていて購入を見送ったり、そんな経験はないだろうか。

私はもちろん心当たりだらけである。

人の行動に影響するモチベーション

もう一つ、人の行動に関して極めて重要な概念を紹介しておく。

「自己効力感」

これはアメリカの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念。認知心理学や人間工学の分野に多大な影響を与えた言葉でもある。

自己効力感とは、簡単にいうと「やれるかどうか」という実行の可不可ではなく「やれるように頑張れると思うか」という予期的な尺度のこと。つまりはモチベーションということになる。

例えば、

絶対に購入者の生活を豊かにできると自信を持って販売している製品があるとしても、それを使いこなそうというモチベーションを設計できていなければ購買行動を喚起できない。
社会に影響できる素晴らしい業務とそれに見合った高待遇を用意して採用活動をしていても、そんな偉大な仕事に就く自信がないと自己効力感を低く持たれてしまっては応募は集められない。

「行動の喚起」が常に目的となるデザインでは、モチベーションという感情の設計も極めて重要なファクターとなる。

ターゲットを決めなければ設計できない

なぜターゲットを決めなければいけないのか、絞らなければならないのかと問われると、それを論理的に説明できる人は意外に少ない。あまりに当たり前過ぎて、源泉を深く追求することもなく、プロジェクトのルーチン化してしまっているというケースも多いのではないかと思う。

人の行動はかなりの大部分で感情的な作用が影響している。

行動の喚起を目的とすると、デザインでは感情の設計が不可欠になってくる。

特に、ハッセンツァールの説く快楽的属性の「同定…分らしさを示せるか。」という要素、バンデューラの説く「自己効力感…やれるように頑張れると思うか」はターゲットがイメージできなければ、設計不可能なことがわかっていただけたと思う。

ターゲットを明らかにし、できれば極力狭い範囲に絞り込み、その人たちが自分らしさを感じられ、モチベーションが満たされるデザインを遂行できた時、製品とユーザーとの良好なコミュニケーションが設計される。

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