やる気が行動を促すのではなく、行動がやる気を着火するという科学的事実

やる気が行動を促すのではなく、行動がやる気を着火するという科学的事実

『やる気スイッチ』という言葉を、どこかで一度は聞いたことがあると思う。

人によっては日常的に口にしているということもあるかもしれない。SNSを眺めていても広く共通認識のある言葉として使われているように思うし、ネットニュースの見出しで使われていたりするのを見ると、現代語として既に定着していると言っていいだろう。

ただこの『やる気スイッチ』。
実は、株式会社やる気スイッチグループという会社が商標を持っている。

この会社は、学習塾のスクールIEを運営する事業者で、『やる気スイッチ』とは元を正せば、その広告で使用されているキャッチコピーだ。

「見つけてあげるよ~君だけのやる気スイッチ~♪」という印象的なフレーズを聴けば、きっと心当たりを感じると思う。



やる気スイッチという誤認

当たり前のことだが、『やる気スイッチ』とは広告表現に過ぎず、あくまで一事業で使われたキャッチコピーで、実際にそんなスイッチはない。

改まってこう言えば誰もが「そりゃそうだ」となるのだが、人はしばしば言葉に行動を縛られることがある。

最初はネタ的に比喩で使っていたにもかかわらず、それが常態化することで認識が少しずつ捻じ曲がっていくという例は、枚挙にいとまがないが、今回のこの例も、そんな多くあるものの一つのように思う。

『スイッチ』という言葉の響きから、さも『やる気』というものが電灯のオンオフのようにパチッと瞬時に切り替わるもののように印象付けられてしまう。

その結果、現在散見するような「今日はなかなかやる気のスイッチが入らない」とか「スイッチがオンになるまで別のことをしていよう」みたいな思考に繋がってしまうのだろう。

しかしもう一度言うが、『やる気スイッチ』とはもともと広告表現に過ぎず、実際にそんなスイッチはない。

故に、スイッチがオンにならないと嘆いていても、スイッチがオンになってから始めようと待っていても、それで何か事態が好転することはあり得ない。

やる気と行動の因果の順序

脳科学的にも『やる気』と『行動』の関係は、「やる気が出てから行動する」のではなく、「行動がやる気の着火に繋がる」という仕組みなのだと言う。

東京大学の脳研究者である池谷祐司教授によると、脳には人のやる気を司る“側坐核”という部位がある。

私たちの脳は、この側坐核が興奮状態になることで、集中力が高まって気分が乗ってきたと感じるのだが、この部位の神経細胞はまず何かしらの刺激が来ないと活動してくれない。

つまり、何か先んじて行動を起こし、側坐核に信号を送らなければ『やる気』は起こらないのだ。

このことからも『やる気』→『行動』の因果は本来逆で、『行動』→『やる気』が正しい順序だと言うことがわかる。

やる気はジワジワと発生するもの

経験上『やる気』というやつは、電灯のスイッチのようにパチッと瞬時にオンオフするものではなく、何かに例えるなら湯沸かし器の様相に近い。

やかんに火をかけ、水が徐々に温度を上げ、ジワジワと沸騰して湯へ状態が変わっていくような有様に照らす方が余程しっくりくる。

だから、『やる気』が起こった瞬間を自覚することは難しく、しばらく経ってみていつの間にか集中モードに入っていたと、事後的に気づくのがほとんどだ。

このことからも、「やる気スイッチがオンになるまで待とう」という論理が、いかに破綻しているかわかる。

恐らくだが、広告で使われている『やる気スイッチ』の当初の意図するところは「子供の興味関心を引き出して意欲に繋げる」みたいな長期的な──マクロ的な話だったのだと思う。

そう考えると実に秀逸なコピーなのだが、今現在散見するような、もっとミクロな、日常の行動始点に焦点を当てた誤用を続けてしまうと、重大な能力抑制につながってしまう危険性を孕む。

長期的な夢や目標など、意識や認知から入って行ったほうがいいものもあるが、日々の業務やこなさなければならないタスクは、まず何でも手を付けるとか、格好だけでも着替えるとか、行動を先んじることが肝要だ。

よくよく見極めて、無為な時間を過ごさぬよう気を付けたい。

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