ユーザーの価値評価形成に影響するモチベーション

ユーザーの価値評価形成に影響するモチベーション

今の時代、どんなジャンルの製品でも、どんな分野のサービスでも、機能や技術が高いとか、スペックの割りに価格が安いとか、そういった性能本意の価値提案だけでは、なかなか消費者に評価されない。

それは、すでに一定の水準まで機能的な価値は上がり切ってしまっていて、成長曲線で言えばIT革命以降の文明が成熟期に入っており、誰もが理解できるような明らかな技術革新というものが起きにくいからだ。

では消費者に評価されるには、どういったアプローチで製品やサービスをアピールしていけば良いのだろうか。

この命題に応えるのも、UXデザインの領分である。



ユーザーの価値評価形成に影響する二つの心理

市場に投下される製品やサービスはコモディティ化──陳腐化の一途を辿り、事業者毎の明らかな性能、スペックの差や違いは見えなくなってきた。

そんな中、消費者に自社の製品・サービスを欲してもらうためには、どうアピールしたら良いのだろうか。

マッチョ的な考え方をすれば、産業革命→IT革命に次ぐ新たなパラダイムシフトを起こして、別次元の性能次世代の価値を開発・提案できればいい。そうすれば当然、他との差別化は容易に図れる。
しかし、その実行はあまりに現実的でない。

製品やサービスがコモディティ化し性能が均一化する一方で、消費者のニーズは実に多様に、多岐化・複雑化している。

技術が成熟し、開発されるアウトプットがどんどん洗練され均一化されていく力学に反するように、需要はより多様で細かいニーズへの応答に向かっているのだから皮肉なものだ。

しかしここに「どうしたら良いか」の答えがある。

UXデザインの研究分野は、認知工学・人間工学・感性工学などの学問分野に関連する。
要は、人の認知的──心理的仕組みを理解し、インターフェースやインタラクションのデザイン、ないしサービスやユーザービリティの設計に活かそうという学問分野だ。

その研究の中で、ユーザーの価値評価形成に影響するモチベーションとして、以下のような二つの心理が挙げられている。

・自己効力感(Self-efficacy)
・製品関与(Product Involvement)

自己効力感(Self-efficacy)

この言葉は、スタンフォード大学心理学教授アルバート・バンデューラが定義したも。

曰く、

それぞれの課題が要求する行動の過程をうまく成し遂げるための能力についての個々の信念

だそうだ。

「個々の信念」の部分が上手く翻訳されていない気もするが、要は「頑張れると思うか」の心理的度合いのことだ。

例えば、ある機械製品を対象にしたとしよう。

その取扱説明書に目を通せるか、実際に操作できそうか、トラブルが起きた場合対処できそうか、そういった予期的な度合いで、この自己効力感は計ることができる。

実際には20の設問を7段階で評価していくのだが、ものすごく簡略化すると、操作できそうにないと感じていれば、自己効力感が低く、逆に何かトラブルが起きても対処できそうだと感じていれば、自己効力感が高いということになる。

サービスを設計していると「このくらいならできるでしょう」「よく考えれば分かるでしょう」と“やれるかどうか”のジャッジで、ターゲットとする顧客層にとっての“苦労”を織り込んでしまうことがよくある。

その些細な苦労が、“やれるように頑張れると思うか”という自己効力感の低下に繋がってしまう。

気をつけて念頭に置かないと、ユーザー目線の欠如につながるので注意が必要なのだが、その注意喚起という意味だけでも、この概念の言語化には多大な恩恵がある。

製品関与(Product Involvement)

製品関与は、感性的・情報的・認知的と3つの側面から測定される。

感性的側面は、使っていて楽しいだとか、自分の趣味や興味に関連しているだとか、自分らしさが反映できるだとか、もしくは使っている姿を想像できるのような感情的な度合いだ。

情報的側面は、その製品に関する情報取得度、例えば新しい機種の新しい機能をどれだけ知っているかとか、情報の感度に関する尺度となる。

認知的側面は、その製品を使って得られる効果が想像できるか、使い方がわかるか、ないし想像できるかといった基準の度合いである。

これは元々、消費者行動論の研究で用いられていた概念で、ユーザーの個人的な目的や価値観と製品との関係の度合い、有り体に言えば、関心の高さ愛着、ないしこだわりなどを表している。

言い方が堅苦しくて理解に苦しむかもしれないが「ブランディングが上手くいっている製品は総じて、ユーザーの製品関与が高くなる」と言えばイメージがつきやすいだろうか。

顧客との関わり方が伸びしろ

「自己効力感」「製品関与」。

製品やサービスがコモディティ化し、性能では差別化を表現できなくなってしまった今、こういった心理の作り込みが極めて重要になってくる。

「心理の作り込み」なんていうと聞こえが悪いかもしれないが、要はアピールするベクトルを──注目してもらう側面を、性能や品質のみに固執せずユーザー心理に寄り添ってフォーカスすれば良いのだ。

そうして、伝え方を工夫し、関係の在り方を模索していくのが現代のビジネスだ。

しかし、そうなると必然的にターゲットする顧客を明確に限定する必要が出てくる。そしてその顧客を深く理解することが避けられない工程になってくる。

性能や表面的な品質の向上のみを追い求めていればよかった時代と比べると、やや面倒に感じてしまうかもしれない。

けれどこういった、製品・サービスと顧客との関わり方の見直しは、そのまま“伸びしろ”と言え、UXデザインが市場に価値を生む大きな可能性だと私は考える。

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