なぜ高級アパレルは続々アニメコラボをしているのか

なぜ高級アパレルは続々アニメコラボをしているのか

アメリカのハイブランド「COACH(コーチ)」と岸本斉史先生著作「NARUTO -ナルト-」のコラボ商品が先日10月7日より発売され、私の中でちょっとだけ話題になりました。
詳細をよく見てみると、直接ナルトとコラボではなく、“ナルトのアニメにインスパイヤされた俳優のマイケル・B・ジョーダンさんとのコラボ”という事らしいです。

 

ちょっとややこしいですね。詳しくはFASHION PRESSさんをご覧ください。
FASHION PRESS→ https://www.fashion-press.net/news/54212

 

プロモーションムービーでは写輪眼のマイケルが登場。
日本が舞台なので、雰囲気はなんとなくブレードランナーっぽくて割と好き。

日本のアニメと続々コラボする海外のハイブランドたち

少し前まで、アパレルとマンガやアニメのコラボといえば、キャラクターイラストをプリントしたTシャツなどがベーシックでした。特にユニクロのUTなんかは、定期的に店頭に並べてTwitterなどで度々話題になっているので、ご存知の方も多いのではないのかと思います。

今や国内のサブカルチャー市場は一定以上の規模に到達していますから、ニーズだけ追っていてもある程度の収益が見込めます。実際いろんなメーカー・ブランドがこぞって後続し、コラボグッズを展開しています。

GUCCIから始まった大きな流れの変化

ここまでは特に変わった流れでもありませんが、(個人的に)違和感の始まりは2011年。
当時、ファッション雑誌「SPUR(シュプール)」の表紙を見て目を丸くされた方も多かったのではないでしょうか。


イタリアのハイブランド「GUCCI(グッチ)」がまさかの「ジョジョの奇妙な冒険」とコラボ。


荒木飛呂彦先生の見事なイラストがSPURの表紙を飾り、一瞬で目を奪われました。その後もジョジョは「BVLGARI(ブルガリ)」「BALENCIAGA(バレンシアガ)」など名だたるハイブランドとのコラボを実現しています。

ジョジョ以外にも、「Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)」はSQUARE ENIXのコンシューマーゲームFINAL FANTASY XIIIと。作中の主人公であるライトニングさんがヴィトンを纏ったポスターが話題になりました。ちなみにライトニングさんは「PRADA(プラダ)」も着てます。

サブカルチャーを使った戦略的コラボ

そこへ来て、今回のCOACHのナルトコラボ。上のプロモーションムービーでマイケル・B・ジョーダンが肩にかけているウエストポーチは6万円もします。ハイブランド品なので当然ですが、数千円のコラボTシャツとは異なり、かなりの高級品です。

中には「ファンなのだから6万円くらい余裕で払う」という方もいらっしゃるかもしれませんが、ターゲット層は、ハイブランドとは縁遠いマンガやアニメなどジャパンカルチャーが好きな若者たち。この価格帯のものを商品展開するには明らかに市場規模が小さい。6万円のポーチならまだギリギリファングッズと見ることもできなくはないですが、ジャケットは33万円です。日本企業が同じことをやろうとしたら間違いなく受注生産になるでしょう。

商品ではなく広告

では、なぜ採算度外視のコラボ商品を売り出すのかというと、それは間違いなく「広告」として捉えているからです。

GUCCIやBALENCIAGAがジョジョとコラボした広告を出したように、Louis VuittonやPRADAがFF13とコラボしたように。このコラボ商品は、販売が目的ではなく、広告効果に対しての投資なのです。

なので日本国内でよく見るコラボ服、ファンのニーズに応えたファングッズ開発と同列に捉えると、もの凄い違和感があります。
COACHのこの商品はあくまで広告で、その目的は「ブランディング」です。

ハイブランドがマンガやアニメでブランディングする理由

現在、日本のみならず世界の先進諸国は総じて経済が成熟期を迎えており、慢性的なデフレ状態にあります。好景気とはインフレ状態の事を指しますので、反対のデフレは不景気と捉えられることが多く、消費はやはり落ち込んでいます。

特に若者の消費は全世界的に冷え込み傾向。「若者の〇〇離れ」など、若年世代の消費に対する粗食化・絶食化は日本だけではなく世界のトレンドです。

ハイブランドだけの問題ではありませんが、特に高級な商品を扱う彼らにとって、将来の顧客となる若年世代に憧れられない現状は大問題。放っておけばその道の先にあるのは倒産です。

未来の顧客に友好を投げかける

マンガやアニメなどのサブカルチャーは、今やメインカルチャーと言っても過言ではないかもしれません。

以前のマンガやアニメといえば、欧米では「カートゥーン」と呼ばれ、あくまで子供のためのモノ。現在でも一定の年齢より上の世代には、「思春期過ぎれば卒業すべき」という考えがまだまだ根強い印象ですが、主に80年代中盤以降にアニメを見て育った世代にとって、その発想はベターではなくなってきています。

(この話を掘り下げても面白そうですが、脱線しそうなので切り上げます)

そんな若者の新しいカルチャーを取り入れる事で、欧米のハイブランドは現状の巻き返しを図っているわけですが、そのメッセージを意訳すると以下のようなものになります。


「私たちはあなた方の仲間」


つまり、不景気による消費の粗食化が進む若年世代にとって無関係な存在と思われてしまっているハイブランドたちが、「自分たちは若者のカルチャーに理解のある企業であり、あなたたちがワクワクするような施策も率先して行う姿勢をもっていますよ」とアピールしている構図です。

表面だけで解釈すると「SNSで話題になるため」とか「変わったことをしてニュースになるため」のようなマーケティング手法に見られてしまいがちですが、これは短期的な収益目的ではなく、「未来の顧客に友好を投げかける」長期的なブランディング戦略です。

企業寿命をかけた重大な施策

アパレルの他にも、ドイツの高級自動車メーカー「Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)」はアニメでプロモーションビデオを作成していましたね。あれは、商材の方もベンツにしては廉価な「新型Aクラス」の宣伝でしたし、あからさまに若者世代に向けたメッセージでした。

今やハイブランドの中では、「若者にどう振り向いてもらうか」というのが「企業が何十年先にもまだ生き残っていられているか」を決定づける命題となっているんです。

もはや若者にとってメインカルチャーになりつつあるマンガやアニメとのコラボは、奇抜性や話題性にのみ注目がいきがちですが、こういった背景を考えて改めて見てみると面白いかもしれません。


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