サービスやプロダクトを設計する時、それを優れた品質とするにはどうすれば良いのだろう、何か指針となるようなものはないだろうか、と考える。
品質管理という観点で言えば、古くからISOやJISなどといった規格がある。
これらも、なにかと技術中心──サービサー都合に揺れてしまう開発時の思考を、外部基準の品質管理という体裁を用いて、ユーザー視点にアンカーしておく一定の効果が見込める。
しかしこれらは、良い意味でも悪い意味でも形式化しており、効率は良いけれど『ユーザー中心』という哲学へ意識を向けるには少々物足りなく感じる。
そこで登場するのが“UX(ユーザー体験)デザイン”なのだが、今回はUXのとある有名なモデル『ハッセンツァールモデル』の紹介と共に、ユーザー中心の品質設計指針を共有していきたい。
ハッセンツァールモデルとは
マーク・ハッセンツァールはドイツのUX研究者で、世界のUX研究をリードする第一人者と評されている人物だ。
そして彼がモデル化したUXの基本的フレームワークが『ハッセンツァールモデル』あるいはハッセンツァールのUXモデルと呼ばれるものとなる。
これは、「サービスやプロダクトの価値はユーザーの体験によって決まる」というUXの前提に基づき、開発者やデザイナー側が優れた品質を表現するために、どのような要件を満たすべきかを明確に可視化している。
ユーザーから見た場合、表出した性質を知覚した体験の結果として評価が形成される。
ここで示唆されている特に重要な点は、サービスやプロダクトの性質の高さはユーザーの評価と決してイコールではないということ。
ユーザーがどう感じるかは、知覚した状況や利用したタイミングなどにも影響を受け、開発者やデザイナーはそれに関与することができない。
一方で、ユーザーがどのような性質を知覚して品質を評価しているのかを、ハッセンツァールは『実用的属性』と『快楽的属性』の2つの視点で言語化している。
そしてそれらは、サービスやプロダクトの内容や訴求として、意図して表現しユーザーに届けることができる。
これがつまりは、品質の指針となり得る。
品質には『快楽的属性』が重大に関わる
『実用的属性』とはつまりは、操作性とか機能性──要はスペックに関わる属性となる。こちらは比較的受け入れやすいというか、当たり前の話と思ってもらえるだろう。
しかしこのモデルの面白い点は『快楽的属性』という部分に宿る。
ハッセンツァール曰く『快楽的属性』には以下のような3つの要素がある。
・刺激(刺激を受ける)
・同定(自分らしさを示せる)
・喚起(気持ちが喚起される)
こういった視点が、このモデルが出現する以前には全くなかったのかと言えばそうではないが、あえて言語化したことに功績があるだろう。極めてシンプルでわかりやすく、かつプラグマチックだ。
優れた品質は『実用的属性』だけでは築けない。
なぜなら、品質とはサービスやプロダクトそのものの操作性や機能性によって決まるものではなく、それにユーザーが触れて──知覚・体験して、結果として認知的に評価判断されるものだからだ。
それ故に、この『快楽的属性』という視点が極めて重要になってくる。
サービスでもプロダクトでもないが、ウェブサイトやグラフィックをデザインする時にも、私はその『快楽的属性』を重視している。
まず『刺激』。これは面白さや珍しさ、新しさと言っても良い。
“品質”を“体験”と考えた時、単に実用的なだけのものでは高い評価は得られない。それに加え、驚きとか使用していて楽しいだとか、あるいは爽快感のようなものも知覚してもらう必要がある。
『同定』は少し難しい言葉だが「自分にふさわしいか否か」という判断をユーザーは必ずしている。
いかに機能が優れていても、子供向けのデザインのものを進んで身に付ける大人は極少ないし、老人向けのブランドは若者にとって選択肢にも含まれない場合がほとんどだ。
『喚起』も言葉の幅が広すぎて解釈に幅が出てしまうが、要はモチベーションである。私は、上二つの要素から瞬発的な感情形成を抜き取った要素という解釈をしている。
ポジティブな感情形成だと、例えばブランドへの共感とか、それ使用している未来の自分の想起だとかだろう。ネガティブな感情形成の回避という方向で言えば「自分でも扱えそう」みたいな、いわゆる自己効力感の予期と考えても良い。
あくまで指針の一つとして
品質の評価は、ユーザーがそのサービスやプロダクトに触れて初めて判断するものだから、本質的には開発者側が測るものではない。
けれど、ユーザーが知覚する性能を、サービスやプロダクトの内容や訴求を通じて意図して表現することはできる。
そういった視点で、「では一体何に気をつけて表現すれば良いのだろう」と思案する際に、今回紹介した『ハッセンツァールモデル』のようなフレームワークは非常に参考になると思う。
もちろん、品質の考え方もUXデザインの方法論も他にいくらでもあり、ビジネスもまた一つ一つ異なり、画一的な方程式は存在しない。
その前提を崩さないよう、あくまで一つの品質設計指針として参考にしてもらいたい。
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