先週、7月9日木曜日。
管理的立場、指導的立場にいらっしゃるビジネスパーソン向けに講演を行いました。
テーマは“アイディアが創造されるという現象”
テーマは、昨今ビジネスの現場でも教育の現場でも、極めて重要度の高い素養として語られることの多くなった、クリエイティブ思考について。
捉えどころがなく、比較的感覚の比重が高いため、あまり論理的、体系的に語られることのないテーマですが、心理学や脳科学など、アカデミックな分野で培われた知見、クリエイティビティ研究-人間の創造的知性についての研究-をベースに、アイディアが創造されるプロセスを紐解いていきました。
アイディアが降りてくる。インスピレーションが湧いてきた。閃めく。
こういった現象は、少し前までとてもスピリチュアルな、超常的なこととして語られていました。
そしてそれは、優れたアイディアを出せる人、核心をつくインスピレーションを得られる人を「天才」と称し、突き放して考えてしまいがちな事から、現在でもなお根強く思考を支配していることと思います。
しかし、
「クリエイティビティは神秘的でスピリチュアルな特殊能力ではない。クリエイティビティは知能テストで測れる類の能力ではないが、知性や学習といった現象と同じ方法で説明する必要がある」
1950年、心理学者のジョイ・ギルフォードが発したこの言葉から始まった、およそ70年の研究の中で、アイディアやインスピレーションを得るといったクリエイティビティ、創造的な発想が出現する現象には、一定のパターンが存在し、プロセスとして説明できる、といったことが唱えられる様になりました。
クリエイティブなプロセスについての知見
今回の講演では、クリエイティブ研究で特に扱われることの多い、パブロ・ピカソやアルベルト・アインシュタインなど芸術家や科学者の発想プロセスを例に取り、これを解説しました。
「クリエイティビティとは、優れたアイディアが訪れるのを待っていることでも、何時間もパソコンにしがみつき、狂ったように働き続けることでもない」
多くのクリエイターへのインタビューやその考察を通して、クリエイティビティに深く精通していることで知られるHummelのCEOクリスチャン・ステーディルは、人間の創造的プロセスについて、この様に語っています。
おそらく一般的には、優れたアイディアとは、寝る間も惜しんでひねり出すもの-例えば作家であればホテルに缶詰になるといったエピソードをよく聞く-という認識を持たれていると思います。
ですが、クリスチャンはこれを否定し「クリエイティビティは無理強いしても反応しない」とも語っています。
これは彼に限らず、この分野を扱う多くの研究者が同様のことを語っています。
例えばピカソであれば、キュビズムの発想を湯船に浸かっている際に-極めてリラックスした環境で-得ています。ニュートンは万有引力の着想を実家の庭のベンチで休憩している際に得た、というのも有名です。
この二者の共通点から読み取れることは、
脳に多くの情報や刺激を与え、それらに埋め尽くされ、混沌とした状態から、一旦全ての思考を保留する様な、リラックスした瞬間に革新的なアイディアが湧き上がってきているという事実です。
この現象について、同じくクリエイティビティを研究しているMIT上級講師のオットー・シャーマーは次の様に比喩しています。
これらのことを踏まえ、今回の講演では我々の実践知も合わせて、こういったプロセスを体系的に実行するコツをいくつかご紹介しました。
この様な流れで、お話しさせていただきました。
お越し下さった皆様、改めましてありがとうござました。
とてもご好評いただけまして、様々なフィードバックが次回のための活力にもなりました。
時代に求められるクリエイティビティ
冒頭でも少し書きましたが、こういったクリエイティビティな素養、クリエイティブ思考は昨今、ビジネスの現場はもちろん子供の情操教育においても、極めて重要なポイントと扱われています。
しかし、現場ではまだまだ低空飛行の浸透率と言わざるを得ません。
2016年、アドビシステムズがクリエイティビティに関する世界的な意識調査を行いましたが、その結果の中で「自らをクリエイティブである」と回答した日本人の割合は、わずか13%でした。
ちなみに同設問の調査結果では、ドイツが57%と最も高く、次いでアメリカが55%、イギリスが41%、フランスが40%となっています。
「もはやクリエイティビティは少数者のための贅沢品でなく、あらゆる人々にとっての実需品となった」
クリエイティビティ研究を行う心理学者のチクセントミハイは、この様に語っていますが、私はこれに完全に同意しています。
明日をも知れぬ、変化の著しい現代社会において、多くの社会問題が続々と顕在化する昨今において、それらを解決する必要性も、イノベーションを起こす機会も、過去とは比較にならないほど増加しているのです。
合理性や効率といったロジカル思考の影に隠され、そういった創造的かつ直感的なクリエイティブ思考やそれに類する能力は、まだまだ軽視され蔑ろにされがちです。
しかし、こうした情勢下、時代に生きる私たちは、一人一人がイノベーションを起こせる思考プロセスやクリエイティビティ-人間の創造的知性-にスポットライトをあて、磨き、携えるべきであると考えます。
また、そういった素養を育む環境や尊重する文化、空気を築き上げていく事も喫緊の課題と強く感じています。