現在、我が国は“財政破綻”という極めて深刻な危機に瀕している。
国家の“財政破綻”と言えば、今からおよそ10年ほど前、ギリシャのデフォルト(債務不履行)危機が大々的に報じられていたことが記憶に新しいと思う。
当時ギリシャは政権交代により赤字財政の隠蔽が明らかになり、国民はもちろんEU全土、ひいては世界経済をも巻き込む大混乱が巻き起こった。今では──2018年まで続いた様々な支援プログラムにより、一旦の収束を見せているが、本質的な解決にはまだ時間がかかりそうだ。
返しきれない借金を負う深刻なリスク
なぜギリシャは、これほどの危機を招いてしまったのか。
それは身の丈に合わない高福祉制度による負担増に他ならない。当時ギリシャの公務員は労働人口の1/4を占め、年金受給年齢は55歳からと、他の先進諸国と比して極めて手厚い待遇だった。
もちろんそれを実現できるだけの高い税負担と、負担を担保し続ける国の経済規模──GDP(国内総生産)があれば話は別なのだが、ギリシャの場合は国債などの公債を、つまり借金を膨張させることで高福祉を維持していたのだ。
ちなみに、この時のギリシャの公債発行額はGDP比のおよそ200%だったのだが、驚くことなかれ、日本の公債発行額は2020年にGDP比266%と、既に当時のギリシャを大幅に上回る借金額となっている。
では、なぜ日本はここまで大規模に借金が膨らんでいるにも関わらず、ギリシャのような財政破綻に陥らないのだろうか。
その理由は、アベノミクスや黒田バズーカの異名で知られる、“金融緩和”というある種のドーピング行為を依り所にしている。
上で述べたように、GDP比266%という借金額は、国債の信用を揺るがして然るべきボリュームである。しかし国債の信用度が下がり金利が上がってしまうと、例えば日本の場合、1%に上がっただけで年間の負担が10兆円を超え、年間の国家予算1割強を金利だけで支出してしまう。そのため政府は、日銀に国債を大量購入させ、ほぼゼロに近い低金利を保っているのだ。
ギリシャはこのドーピングを行うことができなかった。なぜならEUは通貨安定のため、協定で国独自のそういった政策を制限していたからだ。この一点を見て「ギリシャと日本は異なる」という意見もある。しかし同数以上の反対意見にも見えるように、これは決して楽観を続けて良い免罪符とはなり得ない。
この瀬戸際でギリギリ保っている状態を脱出するには、長期的な計画を組み借金返済の道筋を明らかにする必要がある。
実際、当時麻生政権下の政府は2009年、2020年までに基礎的財政収支を黒字化することを宣言した。政権交代を経た2010年、菅内閣がG20トロント・サミットにて国際公約にもしている。
だが、結果はご周知の通りである。
人口減少と高齢化で益々見えなくなる財政健全化
まず借入を減らすことは現状大変厳しい。
311東日本大震災や新型コロナウイルスなどの大災害を抜きにしても、日本は著しい人口減少と世界で最も進んだ高齢化社会へ突入しており、莫大な金額を要する社会保障の給付額は1990年から2020年の30年間でおよそ3倍強と年々増加し、逆に保険料収入は横ばいの状態が続いている。
給付額と拠出額の差額はワニの口状に広がり続けているのだ。
<参考>「日本の財政を考える」: 財務省
さらに、2024年には団塊世代が全て75歳以上となり、国民の1/3が後期高齢者という──未だ人類が経験したことのない『超・高齢化社会』に突入する。
財務省によると、65~74歳と75歳以上で医療費の国庫負担は約4倍増、介護費は約10倍増となる。もうたった3年後には、今よりもさらに膨大な金額が必要となる。
一方で、その財源として期待される保険料や税金を納める労働人口は、深刻な人口減少により減っていく。保険料の増額や、財務省が謳っているようにいくら消費増税を繰り返したとして、賄える額には限度がある。
今もって既に社会保障財源の多くを保険料以外の財源に頼っている現状で、公債発行を控えるという選択は極めて難しい。
『人口減少』と『高齢化』
この二つの社会問題により、日本の巨額な借金と高額な税負担は恒久的なものとして受け入れなければならない。
もちろん高齢化は──言葉を選ばず口にするが、時間が経てばある程度解決する問題ではある。しかし、2053年までに1億人を割るとも言われている日本の人口減少はこれからも進む。社人研(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、あと100年程度で5000万人を割り込むという試算もある。
すなわち、これは今一時の潮流ではない。極めて悲観的に見れば、日本国消滅の序章と言えなくもない。上述した日本の総人口が1億人を割る頃、世界人口は100億人に迫っているという推計と見合わせると、深刻さがより伝わるかと思う。
では、この2つの問題に立ち向かうため、持続可能な社会を実現するため我々は──これからのビジネスリーダーたる経営者や起業家たちは、どんな価値を創出し、如何様なビジネスを社会に提供していくべきなのだろうか。
問題解決の鍵は『人材と自然』2つの資源
アプローチは様々あると思うが、ベクトルを一方向へ規定するキーワードをあげるとすれば、それは次のような一言にまとめることができる。
『資源の最適活用』
私は、職業柄もあるだろうが、今まで様々な経営者や起業家の方々の話を見聞きしてきた。その中でも、特にビジョナリーなリーダーたちは一様に上記を実現するビジネスに取り組んでいる。
『資源』と言うが、昨今知名度を上げてきたSDGsで取り上げられるような、暗に環境配慮とかエコロジーなどといったものには限らない。もっと大きな枠組みでサスティナビリティを捉えて、持続可能性を広げる取り組みをビジネスの根幹に据えているのだ。
ここで言う『資源』には、主に『人材』と『自然』の2つがある。
人材資源
例えば、高齢人材──定年後の人材がセカンドキャリアにできるような事業があれば、現在日本の抱える労働人口の減少を軽減することができる。
またそれに付随して、健康寿命延伸産業というものがある。
現在、日本人の物理寿命と健康寿命の差は12.68年と言われている。これは世界的に見て極めて大きなギャップだ。これを埋めることができれば、労働可能人口を確保することはもちろん、医療や介護などの社会保障費の削減にも一役買う。言わずもがな、健康な期間が増えれば人々の幸福度向上にもつながる。
活用されていない人材資源で言うと、それは何もシニア層だけではない。
若い労働力の無駄遣いも日本では度々指摘の声が上がる。これは独特の労働慣習によるところも大きいが、日本の低い労働生産性は改革の余地がある。
大学までで学んだ知識を活かせない就職マッチングや、手続きが多かったり不要な手間に多大な労働力を割いてしまっている環境を是正するだけでも、労働生産性向上を図ることができる。後者はAIやテクノロジーを活用した人間の能力拡張としてもアプローチできるだろう。
個人的には、少数でイノベーティブな働きができるクリエイティブ人材の育成事業は、かなり重要になってくると思う。また、国立大学の在り方を見直して、海外インテリジェンスとの知的交流を強化した、もっと留学生招致に力を入れた学舎にするなど、これからの若い力を育む環境も見直したいところだ。
自然資源
次に『自然』だが、まず現在は衰退──ほぼ休眠してしまっている有様の林業に注目したい。
日本はもともと森林資源の豊富な国だ。戦後は産業として立派に我が国を支えていた。それが今となっては完全に影を潜めている。しかし今もって、放置されている森林は国土の7割、戦後植林された人工林はその4割を占めており、復活の芽はまだまだある。
最近、『CLT(直交集成板)』という木の板を何層にも重ねて耐久性を増した建材が実用化され注目されている。重さがコンクリートの1/4で耐震性にも優れている。その上、木の温もりを感じられる魅力的な建材だ。
他にも、数年前に話題になった『ペレット』などのバイオマス燃料も、今の時代ならもっと大規模に受け入れられる余地があるだろう。
もしかしたら、森林伐採に否定的な感情を持つ方もいるかもしれない。けれど、実は人工林は定期的に伐採しないと、日光が遮られて下草が生育しないことで地盤が緩んだり、水害や火災のリスクが高まる。
今日本では林業の需要が著しく低下しているため、森林に手を入れる人材が不足していて、森林の管理問題が深刻になっている。政府では、森林税を新設して管理費を捻出するなどと言った案も出ているとか。そう言った点を踏まえても、林業を大きな産業として稼働させることは一挙両得以上の利益を生む。
また、農業にも目を向けたい。
日本の農業は知っての通り、小規模農家が散り散りに稼働することで成り立っている。組合組織はあるものの、基本的には農家それぞれが独自の判断で経営している。
それはそれで良い点も多々あるのだが、農業従事者が減少する将来に向けて、個人事業ではなく企業として複数の農家を統合するといった方法も考えられる。大規模化すれば生産効率も上がるし、資本が集まればテクノロジーによる代替も導入し易くなる。
加えて、国内品種の強固なブランディングにより世界市場での競争力も有効に高められる可能性がある。
日本の農作物は既に一定のブランド認識があるので、一流のブランディング・マーケティングのノウハウが加われば、かなりの競争優位性を築けるだろう。
日本が世界の課題解決指針になるために
これから日本の人口はどんどん減少していく。
そう遠くない将来、今も直面している数々の問題が、より明確に顕在化し我々の前に大きな壁として立ちはだかってくる。そしてそれらは、この国の成長を強い力で阻害してくるだろう。
もしかしたら、いくら努力しても一向に光が見えず、心折れてしまいそうになることもあると思う。いやきっと恐らく、これから数年か数十年はそういったハードモードに身を置くことになる。
これだけの目に見える困難を前にして、この国にはもう芽がないと、もっと成長が見込める海外の商圏に主戦場を移したい、税金の緩い国に移住したい気持ちもわかる。むしろ賢いとさえ思うし、そういった選択を否定しない。
しかし、高齢化や人口減少は、日本以外のどの国にとっても成長していけば必ず突き当たる課題だ。その課題を我々──世界で最も早く直面している日本人が、解決することの将来的な価値を私は重く受け止めたいと思う。
そして今まさにこの瞬間も、それらの大きな課題に取り組んでいる日本のビジョナリーなビジネスリーダーたちと共に私も、自分にできることは何か、当社にできることは何か、試行錯誤しながら持続可能性を追求していきたい。