佰食屋に学ぶ人生100年時代の身の丈ビジネス

佰食屋に学ぶ人生100年時代の身の丈ビジネス

佰食屋(https://www.100shokuya.com/は、ステーキ丼をはじめとする3つのメニューを1日100食限定で提供している飲食店です。

2012年にオープンをしてから、2019年では、年商1億、従業員数30名以上の規模で、すき焼き専科、肉寿司専科と計3店舗の経営にくわえ、現在はフランチャイズ展開を進めています。

飲食店経営だけでなく、会社経営で通常考える増収増益多店舗展開でのスケールメリットを排除した考え方は、サービスを極限まで絞ることで成り立っている新しいビジネスモデルです。

人生100年時代と言われる今の個々人(雇用者/被雇用者/自営業)に必要な考え方エッセンスがたくさん詰まっていますので、少しご紹介していきたいと思います。

1日100食限定の理由は「本当に働きたいと思える会社」を創るため

私自身、居酒屋でアルバイト経験がありますが、お酒を飲食店と言えば決まった営業時間があり、社員の方は朝から仕込みで夜の営業を終えて店を出るのは0時過ぎという長時間労働。飲食業界何かとブラックな業界と例えられることが多い業界です。

かなり乱暴ですが、飲食経営の基本的な利益の出し方として、地代家賃が固定なので、できるだけ長時間店を開けて売り上げを上げる、回転率を上げる。というような考え方が一般的です。

一方で働く従業員は長時間労働を強いられるという現実が重くのしかかっています。

ところが、佰食屋は飲食店においては半ば相反する「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」の両立をさせるための手段として、1日限定100食という制限を設けたことで、飲食経営にも頑張ったら頑張っただけインセンティブが入るような、ある仕組みを作りました。

それは、早く売りきることができたら早く帰れるというインセンティブです。

代表である中村朱美さんの父親は飲食店で働いて、いつも帰りが遅く、父親から「飲食店だけは辞めとけ」と何度も忠告があったそう。

そんな体験を通して、利益を追求するより働く自分たちが「本当に働きたいと思える会社」をつくろう。

そのために業績至上主義からの脱却をして、売り上げをギリギリまで減らす。従業員サービスに特化した経営をしています。

提供メニューは「圧倒的な商品力」

提供メニューの素案はもともと旦那さんの得意料理のステーキ丼。

細かい経緯は割愛しますが、売れきるためには圧倒的な商品力が必要だと考えた中村さんは、以下の要件を満たすメニューを開発しました。

  • 月に一回自分がその金額を出してでも行きたいと思えるか。
  • 家庭で再現できないもの。
  • 大手チェーンに参入されないもの。
  • みんなのごちそうであるもの。

その結果、原価率50%の高級牛肉と手間のかかるこだわりの調理工程で大手チェーンがまねできないメニューが完成しました。

「100食の制限」が生んだメリット

100食に制限をすることで、いくつもメリットがあったと振り返っています。まず、佰食屋ではフードロスが0であるということ。

話は変わりますが、食品ロス削減推進法が令和元年10月1日に施行されました。特に罰則規定等はないものの、国と企業がフードロスの削減への取り組みを進めていこうというものです。

本法律は、食品ロスの削減に関し、国、地方公共団体等の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を総合的に推進することを目的とします。

消費者庁HP:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/

佰食屋のフードロスが0の理由は簡単で、毎日100食分の食材を仕入れて、100食を売り切るから。在庫をまったく抱えません。

肉の切れ端などもできるだけソースに有効活用するなど、できるだけ無駄をなくしていて、毎日の営業終了後には冷蔵庫の中身も空っぽ。

提供メニューと提供数と制限をすることで、極限まで無駄がなくなった結果、2012年からフードロス削減経営を実践していたとは驚きです。

また、佰食屋では無断キャンセルがほとんどない。なんと、キャンセル率は0.1%以下

その理由は、基本的には電話とインターネットでの予約受付をしておらず、開店前に対面で整理券を配布する対応をしているから。顔を合わせることが、心理的にキャンセルしずらくさせる効果があるそうです。

一昔前、20数名の宴会キャンセルが立て続けて発生し、テレビを中心としたメディアで飲食店への予約キャンセル料支払いの是非が問われたことがありました。

顔を見ず、電話も掛けず、インターネットだけで予約ができる便利のしわ寄せが出てしまった例です。

キャンセルによる食材ロスがないというのも無駄のないフードロス経営がうまくいっている一つの理由と言えます。

佰食屋は「広告宣伝費が0円」

飲食業界における重要な経営指標となるFLコストというものがあります。

FLコストとは、food and labor costのことであり、食材費と人件費を合計したもので、通常、50~55%内に抑えることが望ましいといわれています。

佰食屋ではそのあたりも赤裸々に明かしていて、佰食屋の食材の原価率は上述したとおり50%、人件費は30%でFLコストは80%。ここに地代家賃や水道光熱費、広告宣伝費など店舗経営に必要な諸経費がかかりますので、そもそも成り立っているのか怪しい数値です。

ところが、残りの20%でうまく回るように設計されています。

一番大きな理由は、広告宣伝費を一切かけていない。という点。一般的な飲食店では広告宣伝費に5~10%程を使う飲食店が多いのに対して、佰食屋はそれがまったくありません。

今では即売り切れの佰食屋も開店当初は一日20食しか売れない時期があったそうですが、たった1件のブログをきっかけにして、100食を完売できるようになったそうです。

サービスを極限まで絞ったこと、広報歴5年以上の経営者が広報業務に携わっていることで、テレビや雑誌といったメディアの取材やインタビューの対象として、取り上げられるようになり、勝手に佰食屋のブランドが拡散されるような流れが出来上がっていきました。

一度、食べれば良さを分かってくれるはずだ、という自慢の商品力コンセプチュアルな店舗設計、経営者によるブランディング戦略がどこの飲食店にもない佰食屋独自の強みだと言えます。

同じ従業員満足への考えは「リッツ・カールトンホテル」と同じ

佰食屋にはクレドと呼ばれる仕事の基準になる信条・価値観で、具体的な行動指針があります。

それは、「会社は明日の責任を。みんなには今日の責任を。」というものです。

「会社はこれからの集客や広報に責任を持ち、お客様にたくさん来ていただく努力をし、みんなを大切にします。」「みんなはお客様が限られた時間の中で最大限満足していただけるよう、接客・調理・おもてなしの努力をし、お客様を大切にします。」

今では、週一回に各店舗に足を運ぶ以外は人事、財務、広報活動に専念をしている代表の中村さん。

開店当初からずっと店に立っていましたが、第二子の出産を機に自分が夜に店に立つのが難しく、「自分がやりたくないことを人にやらせたくない」という思いから夜営業自体を辞めています。

一点経営者らしからぬ発想だと思えますが、このこだわりこそが、佰食屋の源泉であると言えます。

また、現場でのトラブル対応(料理をこぼしてしまった。服を汚してしまった)などはすべて現場判断でできるようにし、さらに、お店をより良くする工夫や改善には1万円以内で自由に使っていいことにしているそう。

どうでしょう。これらのクレドや権限委譲とお金の決済権、ザ・リッツ・カールトンホテルの従業員満足の考えやブランディング戦略によく似ている気がしないでしょうか。

飲食経営に「最高のサービスを提供するホテル」の仕組みを取り入れているのです。

何かを捨てる(制約する)ことで「価値を最大化」する

昨年2018年6月18日大阪北部地震、2018年9月4日台風21号と立て続けに天災が襲い掛かり、活気のあった京都の街に人が訪れなくなり、海外観光客が40%を占める佰食屋も1日50食しかいかない経営危機に陥りました。

ここで、さらに新たな発想が生まれます。1日50食という数字は、何かあった時でも最低限来てくれる人の数を現している。では、1日50食限定の「佰食屋1/2」を創ろう、と。

もっとも働き方改革からかけ離れた飲食業界で新しい働き方を実現させた佰食屋ですが、ポイントは売り上げを上げることを捨てて、100食という制限を設けたということ。売り上げを捨てたことで、佰食屋の商品ブランドの価値を大きく引き上げたのです。

当然、商品力や広報活動など、今の佰食屋を支えている要因は他にもたくさんあると思いますが、「これ以上は売らない、これ以上は働かない」という、この視点こそが今の人生100年時代を生きる人々を、惹きつけているような気がしています。

何かを捨てる(制約する)ことで商品そのものの価値を上げるという考え方は、他の業界や業種のみならず、サービスや商品にも応用やそのままの横展開していけるような発想です。

ぜひ自身の環境に置き換えて、考えてみてはいかがでしょうか。

売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放(著者:中村朱美)

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