「これからを変える」原因論から目的論への自己改革

「これからを変える」原因論から目的論への自己改革

2013年12月13日にダイヤモンド社より出版されたアドラー心理学を題材にした「嫌われる勇気」という本。

昨年11月の増刷で累計発行部数がなんと200万部を突破。これまで要約サイトやまとめ動画などを見て、知った気になっていて、読む気にはならなかったのですが、本当に遅ればせながら。ふと手に取って読んでみたところ、これがとても面白く、2時間程度でバーッと読み終えてしまいました。

本書は、哲人と青年の対話形式でアドラーの教えが分かりやすくまとめられていて、「どうすれば人は幸せに生きることが出来るか」という哲学的かつ普遍的な問いに対して、極めて「シンプルな答えを提示」しています(かといって、実践することは難しいです、笑)。

アドラー心理学の概要や本書の全体像については、偉大なる先人の皆さまがまとめておられますが、やはり要約では伝わらない魅力がこの本にはあると感じました。まだ読んでないという方は、ぜひこれを機に手に取って読んでみていただきたいところですが、そのもう一歩の後押しとなれるよう、私個人が咀嚼して感じた「嫌われる勇気」について書いていきます。

知らない人のためのざっくりアドラー&本書解説

アルフレッド・アドラーは、オーストリア出身の心理学者・精神科医で、かの有名なフロイト博士やユング博士と並ぶ、心理学の3大巨頭と言われています。1870年に生まれ、20世紀初頭にアドラー心理学を創設、1937年(67歳没)にその生涯に幕を閉じました。

世界的ベストセラー「人を動かす」「道は開ける」を書いたデール・カーネギーも「アドラー心理学」に影響を受けたと言っており、近年、再注目されているスティーブン・コヴィー「7つの習慣」にもアドラーが提唱することと同じ内容が書かれていたりします。

本書の要点は大きく4つ

「嫌われる勇気」の要点ですが、おおまかに以下の4つの構成で進んでいきます。

「原因論の否定」
「すべての悩みは対人関係にある」
「課題の分離と承認欲求の否定」
「共同体感覚」

ここでは、「原因論の否定」「共同体感覚」の二つに絞って書いていきます。

過去にある原因は今の目的を満たすための意味付けにすぎない

アドラーの考えは、フロイト的な原因論の否定であり、「人はみな何かしらの目的に沿って生きているという目的論」にあります。

たとえば、両親の不仲や離婚がトラウマで心を病んでしまった人がいた場合、両親が原因で病んだのはなく、「心を病むという目的を達成するために両親の不仲や離婚のせいにした」と捉えます。

いかなる経験もそれ自体は成功でも失敗の原因にはならず、経験の中から自分の目的にかなうモノをわざと見つけ出して、意味を後付けしていることにある。と言うのです。

自らの行動は「経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味で自ら決定する」これがアドラー心理学の考え方の特徴です。

つまり、どれだけ不幸な事象に巡り合ったとしても、その人がどう生きていくかは起きてしまった過去とは無関係であり、その人が「いま」どのような理想や目的を持っているかに起因するということ。

この「過去による今現在の因果をないもの」と見做し、いまの自分自身に原因と行動を求めるアドラーの考え方を「一方的で冷たい」と捉えることもできますが、ここにとても強い共感を覚えました。

例として挙げた「両親の離婚」ですが、実は原体験として私の幼少期に過去に起こっていることで、私自身は事実としてありのまま受け入れている一方で、「両親の離婚や不仲」を悲しいできごととして、辛く苦しい選択をしている人をこれまでの人生で何人も見てきました。

等しく同じ境遇や環境はないと思いますが、同じ事象で受け取り方が違うことを目の当たりにしてきた自身の経験から、すべてはその人自身の選択によるもので、「なにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うか」という目的主義を第一とするメッセージは、とても胸に響きました。

「他者信頼」とゲーム理論の「囚人のジレンマ」

アドラーが提唱する人間関係で目指すべきゴールは「共同体感覚」を持つことで、これは本書の締めくくりにもなっています。共同体感覚とは、他者を仲間だとみなし、そこに「自分の居場所がある」と感じられる概念のこと。

このためには、他者との間に横の関係を築く必要があり(他者と自分は同じではないけど、人として対等であるという前提)、その上で「他者信頼」「他者貢献」「自己受容」の3つの要素がグルグルと回る円環構造によって、共同体感覚が成り立つとされています。

※ここに行きつくまでに、「すべての悩みは対人関係にあること」「他者と自分の課題の分離」「承認欲求の否定」の流れがあり、3要素についても深く解説されているので、より理解をしたい方は調べるなり、本書を読むことをおススメします。

他者と接する際にどちらかが懐疑的だった場合、その先で深い関係など結べるはずはなく、無条件の信頼が横の関係を構築する唯一の手段になります。

アドラーは「嫌われるかどうか、裏切るかどうかは相手が勝手に決めることで、他の人が協力的であろうが、なかろうが関係なく無条件に信頼すること」が大事だと説いています。

この本来科学的なものであるはずの心理学へ、価値感の問題と概念的な自己啓発思想が入ってきて、多少抵抗を感じる人もいるかと思います。



ところで、ゲーム理論で代表的なケースとして紹介される「囚人のジレンマ」をご存じでしょうか。

・2人の容疑者が、意思疎通ができない別々の部屋で尋問を受けている。
・2人が取る選択肢は「自白する」or「自白しない」のいずれか。
・2人の自白状況によって受ける刑罰の重さが以下のように異なる。

パターンA ☞1人だけが自白した場合、自白した方は無罪で自白しない方は懲役5年
パターンB ☞2人が自白しない場合はともに懲役1年
パターンC ☞2人が自白した場合はともに懲役2年

この時、2人がともに「自白しない」を選択することで両者の利益が最適化できるが、どちらか一方が「自白する」裏切りのリスクにより、相手が「自白する」可能性を考えて、自らも「自白する」選択をしてしまう。

このように自己の利益を追求することで、双方にとって最適な結果を得られなくなることを「囚人のジレンマ」といいます。

この囚人のジレンマですが、繰り返し試行回数を重ねることで協調関係を結び、両者の利益を最適化できることが分かっています。簡単に言うと、2回目以降も行われる場合は、相手からの仕返しが怖いので、自白しないを選択しやすい。ということ。

このゲームのルールをもとに、戦略を持たせたコンピューターに繰り返し何度も戦わせた検証実験があります。戦略とは、「必ず自白する」「必ず自白しない」「ランダムで自白する」「n回目に自白する」など様々な行動のプログラムをそれぞれに予め指示しておくというもの。

これによって、一番多く最適な結果を得られたのが「しっぺ返し戦略」をとったコンピューターでした。しっぺ返し戦略とは、「自白しないを選択するが、自白された相手には自白する」というもの。無条件に相手を信頼して自白しない。裏切られた時にだけ自己防衛をしたコンピューターが結果的に一番得をしたのです。


人との出会い、他者とのコミュニケーションも実は点が連続した線であり、囚人のジレンマのような一度限りのものではなく、何度も何度も繰り返しているものだといえます。

つまり、感覚や主観と違った次元で、「無条件の信頼を最初に差し出すこと」が対人関係の構築に極めて合理的な行為だと考えることができないでしょうか。

※もちろん、その人との関係を良くしたくないと思うなら、自らで関係を断ち切るというのも自分自身の課題として選択可能です。

さいごに

いかなる経験もそれ自体は成功でも失敗の原因にはならず、経験の中から自分の目的にかなうモノをわざと見つけ出して、意味を後付けしていることにある。

これは、中国の古いことわざ「人間万事塞翁が馬」と共通点があったり、相田みつをの「しあわせはいつも自分のこころがきめる」という詩にも通ずるところがあります。

いずれも好きな言葉で、本質的に同じような意味合いです。

自身の境遇や環境を言い訳にして今を嘆くのは、「変わりたくないという自分の目的のため」「やらない理由をわざわざ過去の経験から見つけてきている」こういった冷たい見方もできる一方で、「今を、これから自分が成し遂げたい目的のため」「どう変わっていくか、自分で決めることが出来る」という温かいメッセージも込められています。

まさに勇気を与えてくれている一冊で、これから先、何度も読み返すであろう一冊になりそうです。

最初にもお伝えしましたが、要約や動画のまとめで分かった気になるのは非常に勿体ないと思いますので、ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。

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