目がまったく見えない人はデザインをどう捉えているのか。

目がまったく見えない人はデザインをどう捉えているのか。

とある日、ふと頭に疑問が湧いた。目が見えない人は、この世界のありとあらゆるところに存在するデザイン(されたコトやモノ)をどのように受け止めたりしてるんだろうか、と。

弊社が掲げる「出会いを最適化する」デザインを提供している会社の者としては、気になって気になってしばらく頭にこびりついていた。

ある種好奇心に近いようなものだが、目を見えない人は何を感じて、その世界がどのようなものなのか、非常に興味が湧いた。

何か答えのようなものでもないかなと、ふと入った本屋で吸い寄せられるように手に取った「目の見えない人は世界をどう見ているのか」という一冊の本。

目が見えない世界の一端に触れて、世界の見え方が少し変わったので、ちょっと紹介させてほしい。

目の見えない人は内も外も同じ価値

この本は、伊藤亜紗さんという、美学、現代アートを専門とする学者の立場から、目の見えない人の世界を書いた本で、2015年に出版された。

数名の視覚障害者にインタビューした内容をもとに、目が見えない人がどのように考えて、世界を生きているのか、というのを「空間、感覚、運動、言葉、ユーモア」と5つの章で考察されているのだが、これが非常に面白い。

常日頃、相手の立場に立って物事を考えるという視点を大事にしてきたが、如何に目が見える自分が目に見える人の目線で目に見えるものだけを見ていたか。ということを痛感した。

本書内で語られるエピソードで、目の見えない人は「視点がないから裏も表も、外側も内側も全てが等価」という感覚は目からウロコだった。

ある盲学校の美術の先生が紹介していた例です。その先生は授業で、粘土で立体物を作る課題を出しました。すると、ある全盲の子供が壺のようなものを作り、その壺の内側に細かい細工を施し始めたのだそうです。見える人からすると、細工を付け加えるならば、外側の表面に施すのが「自然」です。しかしその子は壺の内側に手を入れ始めた。つまりその子にとっては、壺の「内」と「外」は等価だったということです。決して「隠した」わけではく、ただ壺の「表面」に細工を施しただけなのです。

これを読んだあなたももしかすると、目の見えない人の世界がちょっと気になりだしたかもしれない。

例えば、目が見えない人はどういう風に色を認識しているの?とか。

少なくともこれまで生きてきた中で視覚障がいの方と接する機会がなかったので、生きる上で特に必要のない情報として、これまで考えたりすることもなかった。色については、本書にも書かれており、先天性や後天性などで個人差が大きくあるものだそう。

目の見える人には決して知ることがない、よりパーソナルにフォーカスされた視覚障がい者の世界観を目が見える人との対比とともにじっくりと知ることができる。

ちょっとした好奇心が湧いた方は、これを機に読む本の候補の一つとして追加してもらいたい。

そもそも視覚障がい者って日本に何人くらいいるのか

視覚障がいについて興味が湧いたので、自分でもちょっと調べてみることに。

そもそも視覚障がい者って実際何人くらいいるのか。厚生労働省が5年ごとに実施している「身体障害児・者等実態調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/index.html)」で、公開されている一番直近の2006年の調査(2011年、2016年度の調査結果がなぜないのだろうという疑問もあったが)をみると、全国の身体障がい者数は、348万人、うち視覚障がい者は31万人とある。

スケール感の比較という意味で、31万人は大体東京メトロ大手町駅の1日の平均乗降数と同じくらい。

総務省統計局の同年の日本の推計人口(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2006/index.html)が1億2,777万人なので、人口に対する視覚障がい者の割合は0.2%ほどということになる。

人の行動は目に見える情報によってかなりコントロールされている

自分は100%自発的に行動をしているわけではなく、目から入る情報によってかなり行動を誘導されていることを改めて認識した。本書のまえがきにその一文がある。

人が得る情報の八割から九割は視覚に由来すると言われています。小皿に醤油を差すにも、文字盤の数字を確認するにも、まっすぐ道を歩くにも、流れる雲の動きを追うにも、私たちは目を使っています。しかし、これは裏を返せば目に依存しすぎているともいえます。そして、私たちはついつい目でとらえた世界がすべてだと思い込んでしまいます。本当は、耳でとらえた世界や、手でとらえた世界もあっていいはずです。物理的には同じ物や空間でも、目でアプローチするのと、目以外の手段でアプローチするのでは、全く異なる相貌が表われてきます。けれども私たちの多くは、目に頼るあまり、そうした「世界の別の顔」を見逃しています。

考えてみると、本当に行動を誘導されている。

何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、じゃあ具体的にどういうことがある?と聞かれてパッと答えらえる人はいるだろうか。

それだけ、日常生活の中に自然に溶け込んでいて、そうすることが普通であり、常識だと受け止めていることが世の中当たり前のようにたくさんある。

身近なところで、街や駅の看板、スーパーやコンビニの棚の配置や商品の陳列、遊園地やテーマパークのいたるところに動線設計がそれにあたる。

視覚によって人の行動や心理をコントロールしている。

ちょっと道を歩くだけでも標識や看板、文字、造形物など様々な視覚的な情報が目に飛び込んでくるが、普段は何気なく見過ごすものに敢えて少し意識を向けて、なんでこうなってるんだろう。とか考えると新しい発見があるかもしれない。

光文社公式サイト:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038540

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