自分の人材価値を最大化させるなら専門とする分野と異なる職に就いた方がいい

自分の人材価値を最大化させるなら専門とする分野と異なる職に就いた方がいい

自分の人材価値を最大化させるなら、専門とする分野と異なる職に就いた方がいい。

これは以前から私が主張している論理であり、実際に後輩や友人に転職の際のアドバイスとしておくったこともある。

一般的に、人材の能力や価値とは「特定の業界や職能での経験年数に比例して高まっていく」と考えるのが普通だと思う。

言い方が少しややこしいが、個人の能力差を抜きにすれば、経験が長い人の方がスキルの習熟度も高まり、人材としての価値も比例して上がっていく──つまり一つの職能に長く従事せよ、という論理に違和感は無さそうに思える。

──いやしかし、実際はそう単純に計算できるものでもないよ。先輩だからといって須く自分より有能だとは思えない。そういう話でしょ?

と思われたかもしれないが、そういった話ではない。

確に、効率や目的意識など習熟の速度に関わる条件は数多あり、何も考えず日々をこなしているだけでは、しっかり考えながら経験を積んでいる人との差は開いていく一方だ。みたいな方向の話もあるが、今回は違う。そのため「個人の能力差を抜きにすれば」と前置きしている。

今回は少し俯瞰して──マネジメントの視点から、人材の価値を最大化するために、なぜその人の専門分野から離れることが有効なのか、考えてもらいたい。



価値を生まなくなってきているスキル

まず、人材価値とはなんだろうか。

職務経歴だろうか。勤勉さだろうか。事業の目的に対する理解度や忠誠心だろうか。上で、少なくともスキルの熟練度ではないとは言った。

職人や肉体労働者など──今となっては少数派になってしまった習熟度と価値が比例する特殊な職能分野を除いて、現代社会の構成員として多数を占める知的労働者の価値とは、“世の中に新しい価値を創造する能力”と言い切れる。

新しい価値を創造するなんて言うと大仰に聞こえるかもしれないが、これはなにも大袈裟な話ではない。

今となっては日々の業務レベルでも、平気でイノベーションが求められる。新たな発想でモノゴトを観察・解釈し、新たな切り口で優れた形態へ再構成する能力が求められている。

逆に言えば、既にルーチンに出来てしまっている業務は、さっさとオートメーション化して人の手から離した方が利益効率がいい場合が多い。だからそういった“決まったことを決められた通りに遂行する能力”は、もはや大した価値を生まない。

ルーチンやオートメーションの文脈で言えば、今まで人の手で行うより仕方なかった複雑な業務を、単純化、構造化してルーチンに落とし込む方が、明らかに価値が高い。

複数の価値を掛け合わせることで生まれる価値

『ベストではなく、ユニークな存在になれ』

これはビジネスの競争戦略における基本方針で、事業の競争戦略を考える際は、この方針に則って大抵二つ以上の強みをどう持たせるか検討することが多い。

これは、“一つの価値を磨き上げる”よりも、“既存の複数の価値を掛け合わせる”方が、圧倒的に『ユニーク』を作りやすく、また競争優位を得やすいからだ。

なぜ後者の方が容易いのだろうか。

前者の場合、競争要因は“性能”になる。車ならスピードだったり、ヘッドフォンスピーカーなら音質だろうか、デジタルカメラなら画質で勝負してもいいかもしれない。

しかし、一度“ベスト”の地位を掴み取ったとしても、そこに居続けることは容易ではない。むしろチャンピオンの座についてからの防衛戦の方が困難な場合が多い。

一方で、ユニークな存在──言い換えれば『独自のポジション』に居座ってしまえれば、それは他には無い価値なので、模倣する者が現れるまで、しばらく競争する必要もない。

もちろん、ユニークな存在になることも簡単ではない。あくまで、席が一つか二つくらいしかない『ベストを目指す競争』が、戦略的にあまりにも非現実的になってしまったので、選ばれているのだと思う。

消費者からしても、前者の競争で得られるメリットと言えば、競争によって下落していく価格くらいなもので、企業が性能で競争しているうちは、新しい製品やサービスに出会うことができないデメリットの方が大きい。

そもそもコモディティ化が叫ばれる昨今、消費者が正確に知覚できる性能差というのも頭打ち感があるのに、その仕打ちはあんまりだ。

そういった時代の求めも手伝って、企業の競争優位はこの100年、在り様を変えてきた。

人材の価値が最大化するのは二社目から

企業の競争の在り方の変容と、その中で働く人材価値の比重の変容は、当然ながら相関関係にある。その上で、人材価値の運用も競争戦略に習うことができる。

つまり、人材も『ユニークな存在』を目指せば良いのだ。

競争戦略に習うと、ユニークになるには複数の価値を掛け合わせる──職能的に言い換えれば「複数の専門分野を掛け合わせると良い」ということになる。

これが、冒頭に繋がる。

一般的に、人材の能力や価値とは「特定の業界や職能での経験年数に比例して高まっていく」と考えるのが普通だと思う。なので、多くの人は単一の業界で長く働いて、その道の“ベテラン化”を目指す

しかし、人材価値が最大化するのは、実は二社目からというケースがかなり多い。

あるいは事業部がたくさんある大きな企業であれば、移動した先でということもあるかもしれないが、とにかく複数の異なる専門性を獲得することで、人材価値は飛躍的に高まっていく。

これは、“専門性の組み合わせ”が、他人にはない自分だけの“独自のポジション”を作り上げていくからに他ならない。

私はデザイナーという比較的職人性の高い職業がら、習熟度で価値を高めていく考え方を完全に否定することはできないが、戦略的に今現状の人材価値を最大化したいというニーズの相談を受けた際は必ず、今いる自分の専門分野とは異なる業界で活かすことを勧めている。

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