学校教育では教えてくれないギャンブルと投資の話

学校教育では教えてくれないギャンブルと投資の話

ギャンブルにハマる本質はなんだろうかと考えたが、楽をしてお金が稼ぎたいからやっていることに尽きると思う。

これは人の根源的な怠惰な性質によるものだと言える。そもそも負けると思ってギャンブルや投資を始める人はいないはずだから、どこかで勝てると見込んで手を付ける人がほとんどではないだろうか。

アルバイトで時間をお金に変えたり、今流行りの副業などでスキルや趣味をお金に変えたり、メルカリで雑貨や不用品を売ったりとお金を得る方法はたくさんあるが、どれも時間や手間がかかるし、何より選択肢が多いからどれが良いか選ばなくてはいけない。そんなこと考えるのは面倒だから手っ取り早くギャンブルに手を出す。こんな思考に陥ってしまうのが、はじめの一歩ではないだろうか。

日本各所や世界中を見渡してもギャンブルを公でできる場所は腐るほどある。ただ、これらは提供側が必ず勝てるように設計されているゲームで、やり続ければ参加者が絶対に負けるゲームと言い換えられる。

色々と経験や知識を蓄積していくと楽してお金を得る方法なんてないと理解はできてくるのだが、ギャンブル必勝法や怪しい投資商法がいつの時代も跳梁跋扈しているのは、人が短絡的にかつ、感情的に物事を判断するという性質だからだと言える。

人は期待値を正しく判断できない

フランスの経済学者・物理学者でノーベル経済学賞を1988年に受賞したモーリス・アレが、1953年にニューヨークで行われた会議における「アレのパラドックス」をご存じだろうか。

この会議でアレは、連続する2回のくじに関する質問を参加者に問いかけた。

■1回目のくじ
A:確実に1,000ドルがもらえる。
B:10%の確率で2,500ドルがもらえて、89%で1,000ドル、そして1%は賞金なし。

■2回目のくじ
A:11%の確率で1,000ドルがもらえて、89%は賞金なし。
B:10%で2,500ドルもらえて、90%は賞金なし。

ほとんどの場合、参加者は1回目のくじではAを選択し、2回目のくじではBを選択する。1回目のくじにおいては、個人は期待利得の低い方を選択し、2回目のくじにおいては、期待利得が大きい方を選択したのだ。この実験は何度も繰り返されたが、全て同じ結果になったという。

少し分かりづらかったかもしれないが、得られる金額×その確率で各選択肢の期待値を見ていくとどうなるだろうか。

■1回目のくじ
A:100%で1,000ドル…期待値1,000ドル
B:10%で2,500ドル、89%で1,000ドル、1%は0ドル…期待値1,140ドル
(=250ドル+890ドル+0ドル)

■2回目のくじ
A:11%で1,000ドル、89%は0ドル…期待値110ドル
B:10%で2,500ドル、90%は0ドル…期待値250ドル

期待値を計算するといずれもBの選択肢の方がもらえる額が140ドル多く期待できる。だが、多くの参加者は1回目のくじではAを選択し、2回目のくじではBを選択した。

これまで、ミクロ経済学的な観点から一個人は自身の利益を最大化させることを選択する仮説(期待効用理論)が一般的であったが、検証の結果、ほとんどの人が1回目に期待値が低いAを選択してしまうのか謎が残った。これが、アレのパラドックスとして一躍有名になった。

人はいつも損することを嫌がっている

マーケティングに精通していなくとも、プロスペクト理論という言葉を聞いたことのある人は少なくないと思う。

アメリカの心理学・行動経済学者で、後にノーベル経済学賞の受賞をするダニエル・カーネマンとイスラエルの心理学者エイモス・トベルスキーによって提唱された理論のこと。

その内容をわかりやすく簡潔にいうと、人は利益を得る幸福の感情よりも損失を被る不幸の感情の方が強く、利益を目の前にすると失うリスクを避けて確保を優先し、損失を目の前にするとリスクを背負ってでも回避しようとする性質があるというもの。

どういうことか、以下の質問を元に考えていこう。

<質問1>以下の二つの選択肢のどちらを選ぶか。
A:100万円が無条件で手に入る。
B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。

<質問2>200万円の借金を抱えているとき、以下の二つの選択肢のどちらを選ぶか。
A:無条件で借金が100万円減額され、負債総額が100万円になる。
B:コインを投げ、表が出たら借金が全額免除、裏が出たら負債総額は変わらない。

期待値を見ていくと質問1は、どちらの選択肢も得られる金額の期待値は100万円になる。しかし、一般的には、堅実性の高いAを選ぶ人の方が圧倒的に多いことが分かっている。

単純に考えれば、質問1でAを選んだ人なら、質問2でも確実に利が得られるAを選ぶだろうと推測できるが、実際には質問1でAを選んだほぼすべての人が、質問2ではギャンブル性の高いBを選んだ。質問2のいずれの選択肢も期待値は-100万円と同額なのに、である。

これらの実験により以下の二つの認知バイアスが関係していることが明らかになった。

「確率に対する人の反応が線形でない」
人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先する。
一方で、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)がある。

「人は富そのものでなく、富の変化量から効用を得る」
主観的な満足の度合いは利得の絶対量と比例しない。金額が2倍になっても、価値は2倍にならず1.6倍程度となる。

質問1の場合は、50%で何も手に入らないという損失を回避し、100%確実に100万円を手に入れようとする。一方で、質問2の場合は、確実に100万円を支払うという損失を回避し、50%で支払いを免除されようとする。こう考えると、「2倍の金額を半分の確率で得るよりも1倍の金額を確実に得る」ことの方が利益になるし、「損害額を2倍にしても損害の価値が変わらない」のであれば、2倍の損害のリスクを50%の確率で負う方が利益になる、とわかる。

どれだけ頭の中で考えていても人の最終的な意思決定は「感情」で決まってしまう、恐ろしく面白い話である。

勝つためには“戦略”が必要不可欠

感情の前では論理は無力だと言える。では、ギャンブルや投資、ビジネスで必勝法はあるのか。答えは「ない」。仮にあったとしてもそうそう人には教えることはしないだろう。

ただ一つ勝つ人に共通していることがあるとすれば、そこに勝つための、負けないための戦略がある、ということだ。

20代の頃からパチンコやパチスロをやっていたが、ここ数年めっきりいかなくなった。きっかけはよく勝つ人の勝ち方を近くで見ていたからだ。その人はTwitterを主軸に一都三県の店の動向を毎日チェックし、時には実際に店に足を運び、台番号や機種などの設定変更のデータを蓄積して傾向を把握、勝てる台に座るために徹底的にマーケティングしていた。そのためなら片道2時間の移動も苦にしない。むしろ攻略することを楽しんでいる様子だった。

ここまでしないと勝てないのか、と気付いたと同時に自分に同じことはできないと痛感した。時間という名の情熱のリソースをそこまで割けない、と。他人から教えてもらったにわか仕込みの戦略や攻略法は、自身の感情の前では意味をなさないことは前述したとおり。

たまたま座った台で大きく勝つこともあるが、そんなことは運良く続かないし、2回3回と負ければすぐチャラになってしまう。もし、戦略がない人に勝つ方法があるとすれば、不必要に負けないこと。負けるゲームには参加しないことだけしかない。

雑記カテゴリの最新記事