人の心を動かす”お笑い×ゲーム”トップクリエイター対談

人の心を動かす”お笑い×ゲーム”トップクリエイター対談

ゲームもお笑いも超高度な感情設計に基づいたものだと考えています。

その二つの業界でトップを走り続けるお二方、マリオ、ゼルダの伝説、ドンキーコングシリーズの生みの親である宮本茂さんと、ダウンタウンの松本人志さんが対談していたのをご存じでしょうか。

2011年と少し前のものですが、時代とともに変化する人の心を常に捉え続け、また、人の心を動かすことを思考し続け、感情を揺さぶるコンテンツを創出し続けているクリエイターの対談ですから、共感や学びが非常に多いと感じました。今回はそんな対談内容を一部要約しながら、ご紹介していきます。

クリエイティブにも心技体

松本さん:
いかに幼稚な部分を取り入れながら、技術を取り入れて表現するのは難しい。 宮本さんはすごく頭のいいひとだと思う。

幼稚さを保ちつつ、技術がしっかりついている実例がピクミンというゲーム。気が付いたら自分のコントローラーを宮本さんに、僕自身が動かされていたみたいな、そんな感覚だった。

過去にのめり込んだゲームが10タイトルくらいあって、とことんやり込んでしまう。数年前に気付いたんですけど、そのうちの約半分以上が宮本さんが関わったゲームだった。

よくスポーツでは、心技体ということが言われますが、心は童心だと思っていて、そこに技術と体力が合わさって、面白いことが出来ればいいと思っているんですが、宮本さんがそれをまさに実現していた。

宮本さん:
社会に出て、会社に入って大人になっていく過程で技術が優位になる。そんな時は、見せびらかしたり、こんなこともできるんだと色んなことをしたくなってくる。それが30歳くらいにどこかのキッカケで“怪しい”と思うようになった。

結果はもちろん重要でちゃんとそこも求めるけれど、自分が「みんなと同じ方向には行きたくない」ということを思い出して「割と本音で作ろう」と。

自分と一緒に作っているメンバーの中にもクリエイティブな人がいて。そういう人が集まってきた。

ファン心理に応える矛盾とジレンマ

松本さん:
周りから言われる「やっていたコントをもう一回やってくれ、別にキャラはそのままで台詞さえ変えてくれればいい」って好きな人は言ってくれる。

でもそれはやりたくない。プラス何かがないと絶対にやる意味がないと思っている。でも、ことピクミンに関しては「同じでもいいから、ステージ違いでもやってほしい」と思ってしまう。この矛盾さ。やはりファンは勝手なものだと。

宮本さん:
仕事の悩みってほとんどがそれ。期待に応えたいっていうのと、一緒じゃ嫌だというのと。今まであった物を強化していくっていう伸ばし方。補強していく、強化していくって、これは割と簡単だけど、一方でどんどん複雑になっていったり、重くなったりするので、初めての人には近寄りがたいものになってしまう。

深くっていうのを求めている人も、深いものを渡したらオッケーってわけじゃない、って思う。だから、深いって思っている人にいかに、そのちょっと外したところでの新しいもの、「あ、これもオッケー」って言ってもらえるのがすごい好きで。

ただ、これでオッケーっていうもので初めての人にもオッケーなものを探すと、これがけっこう迷走する。それはお笑いの仕事を見ていてもそんな風に見える。

世間のウォンツが時代とともに変容している

松本さん:
テレビの仕事をしていて、普遍的なものってどういうものなんだろうって、すごく今難しい思っている。

凸(デコ)と凹(ボコ)の感じかなって思っていて、受け手が今まではその、すごく凹だった。僕らが一生懸命やることが凸で、それがうまくハマれば、何かこう、普遍的なものが生まれるんじゃないかってずっと思ってるんですけど、最近受け手があまり凹じゃないんじゃないかと。

だから、あんまり僕らが凸を押し付けると上手くかみ合わない。特にテレビなんかでいうと、視聴者の方がむしろ凸になってきてて、僕らが凸を押し付けると全然噛み合わないってことがあって。今そこに、どうやったらその凸と凹がうまく合うのかなっていうのは、何か考えてしまう。

宮本さん:
スーパーマリオが売れましたけど、そうするとみんな褒めてくれる。スーパーマリオのここが凄いですね、あそこが凄いですね、って。でも実は言ってくれるところの半分ぐらいは、別にスーパーマリオじゃなくても他のビデオゲームでもやっていることなんですよね。

ということは、インベーダー以来、スーパーマリオが出るまでゲームを知らなかった人が世の中に多いんです。全部知っている人と付き合っていると思ってゲームを作っていると間違ってしまう。

だから、お客さんにはその両方が居る、っていうのを意識に持ちながらやる。スーパーマリオの時にこの、半分のものを取ったのはすごい漁夫の利なんですけど、それは、そこに出てきたから初めて漁夫の利があるわけで。次を作ろうと思っていても、たぶん半分の流れを見ていても出来ないですよね。

爆発的なヒットが生まれなくなってきたゲーム業界

宮本さん:
やっぱり人に伝わりやすい部分がなくなってきているのかなって。世の中のほとんどのものは自分が欲しいなと思ったけど買わなかったものだと思っているんですよ。

世の中の80%以上のものは欲しいと思ったけど買わなかった、買ったのは20%や10%で「じゃあそこに70%とかの需要はあるんですか」と。買わなくて済んだり見なくてすんでるところをどうとりますかって話をして真剣に議論しても答えは出てこない。

自分自身がそうだから、って。「こういう客がいっぱいいるんだ」って思ってやっていれば間違いないと思うので。自分にそういって。だから自分中心でいいかなって。マーケットは世界中なんですから。

じゃあ合格点を何で出すのか?というのはあって、「うーん違うな、違うな」って言いながらどっかで合格点出すんですけど、自分の中で出す理由っていうのがあんまはっきりはないんです。でも、具体的にいくつか合格点を「どこで出してるのか?」っていうのが分かると面白いなって。一つは「他の人がやりそう」ってとこには無い、っていうのがあるんですけど。

あとは、「どうせやるんならそっちの方が楽しそう」とか。で、思ってこう考えていくと「それいける」「いける」って一人で盛り上がってるみたいになってしまう。そのときは「見えないか?」って話になるんですけど、「他にはないよな」っていうのがキッカケになった時に、経験でこうガーッって一瞬で数秒で肉付けしてるような…

さいごに

対談終盤の二人の言葉で、

宮本さん:
「子供をばかにしたものを見るとすごい腹立つんですよ。子供はばかじゃないよ、と。物を知らないだけで知性はあるっていつもそう思う」

松本さん:
「やっぱり答えの出ないもんやから、難しいですねー、言葉で伝えるの。言葉で伝えられるもんなら作らないですもんね。うーん。」

無意識には分かっていても意識の外側にある“分かっていないと分かっていないこと”を改めて教えてもらったような気がします。

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