学習を飛躍的に効率化するMI理論

学習を飛躍的に効率化するMI理論

MI理論という言葉をご存知だろうか。

MIとは「マルチインテリジェンス」の略。これは、ハーバード教育学大学院教授で心理学の世界的な権威でもあるハワード・ガードナーという方が提唱した、人の知能に関する考え方。多重知能理論と呼ばれることもある。

その内容は「人間には8つの知能がある」というもの。ガードナーは、それまで人間の知能を図るため画一的に用いられてきたIQという指標に異議を唱え、この理論を打ち出したのだが、注目すべきはそれを活用した学習法にある。

その学習の根幹的な考え方は「人には8つの知能があり且つその中でも得手不得手があるので、それを見極めて個性に適した学習をしよう」みたいな感じ。しかし、私が魅力的に感じたのはもっと具体的な方法論だ。

「8つのうち複数知能を同時に働かせることで学習は飛躍的に効率化する」



人間の脳はスパコンの2400倍の処理速度

もう何年も前、日本とドイツの研究チームがスーパーコンピュータ「京」を使って、人間の脳をモデル化するという実験を行った。詳しくは、17億3000万個の神経細胞が10兆4000億個のシナプスで結合された神経回路のシミュレーションとのこと。詳しく言われてもよくわからない。

この実験の結果、人間の1秒間に相当する処理に「京」では40分も要したのだそう。2400倍だ。ちなみに8万3000個弱のCPUを使ったらしい。驚きを禁じえない。

つまり何が言いたいかというと、「人間の脳ってそんなにすごかったんだ」ということ。このニュースを目にして、率直にそんな感想を抱いたのだ。

一説によると人は通常、脳の10%程度しか活用せずに生活しているのだとか。これは過去にアインシュタインが発言しただの、心理学者のウィリアム・ジェームズとボリス・サイディズが唱えた「人間の余剰能力に対する仮説」が発端だの色々と言われているが、いずれにせよ最新の知見では否定されている。
否定されているどころか、オカルトや都市伝説の様な認識に落ち着いている印象すらある。

しかしこれ。個人的にはあながち間違いと言い切れないのではないかと思うのだ。

顕在的な機能と潜在的な機能の割合と置き換える

確かに単純な脳活動として90%もの領域が未使用というのはちょっと暴論な気がする。例えばこの仮説が本当であるならば、人間は脳の90%を損傷しても残りの10%で十分な生活が送れてしまうということになる。とても受け入れられない。

しかしこれを、顕在的な機能潜在的な機能の割合と置き換えれば別だ。

我々が常日頃認識している意識を顕在意識と言う。考え、行動することができるコントロール下の意識だ。その逆にコントロール下にない意識のことを潜在意識と言う。無意識と呼ばれることもある。

そして脳科学や心理学の分野では、顕在意識を氷山の一角と例えられることがある。あまりにも有名な知見なので、ビジネスパーソンであればご存知の方も多いのではないだろうか。一説によると顕在意識は潜在意識の20分の1程度であるとか、顕在意識の処理能力が毎秒40bitであるのに対し潜在意識は1000万bitであるとかなんとか言われている。

アインシュタインをはじめ、ウィリアム・ジェームズやボリス・サイディズも、もしかしたらこの顕在意識と潜在意識の機能的な割合を指していたのではないだろうか。それを別の研究者が拡大解釈して、反論を証明したと考えると全ての辻褄が合う気がする。そりゃあ生理学的に見れば、脳に90%もの未使用領域があるなんてありえない。

必死で勉強してテストで100点を取っても、人間の能力は数%しか育たない

さて、この顕在意識と潜在意識。もう少し構造的に把握するために左脳と右脳という形に割り振ってみよう。

左脳は顕在意識、右脳は潜在意識を司る。

よく左脳的な人は論理的で分析力に優れているとか、右脳的な人は想像的で直感力に優れているだとかいう話は聞いたことがあるかと思う。脳科学者から言わせると厳密には少し違うらしいが、大体そんな感じみたいなので、便宜上その風潮を引き継ぐ。

この両者、性格診断とか能力適性診断とかでは同等に扱われる事が多いが、実は天才的な頭脳と形容される人物は総じて右脳が発達している
つまり顕在意識の数十万倍もの処理能力を持つ潜在意識を有効に活用できている人、ウィリアム・ジェームズとボリス・サイディズが唱えるところの余剰能力を発揮できている人こそ天才と形容されるのだ。

しかしここで問題なのが、教科書を使った座学で暗記が中心の学校教育では、左脳しか鍛える事ができないという点。もちろん多様な知識を詰め込んで、生き抜くために必要な最低限の知識を覚えることは必要。その方針を否定するつもりはない。ただ、学校の勉強だけでは、テストでいい点を取るためだけの勉強だけでは、人間の可能性のごくごく一部しか開発できないということを理解しなければならない。

学習を体験に置き換える、多重知能学習

ハワード・ガードナー教授は「人間には8つの知能がある」というMI(マルチインテリジェンス)理論を提唱している。

●言語知能
●論理・数学的知能
●視覚・空間知能
●身体・運動知能
●音感知能
●人間関係形成知能
●自己観察・管理知能
●自然共生知能

従来の知能を図る指針「IQ」を鍛えることを主眼に行われる学校教育では、この内「言語能力」や「論理、数学的能力」しか使われない。体育や音楽、美術などの授業もあるが、それらは受験に役立たない余分な時間として扱われる事がほとんどだと思う。

しかしこの「IQ」に異論を唱えるガードナーの学習法では、上記のうち複数を同時に働かせる事が知能の成育に欠かせないという点において学校教育と基本姿勢が異なる。

複数の知能を同時に働かせるとはどう言う状態か。

具体的には、例えば英語の学習の場合、英語の歌を歌うことで「言語知能」と「音感知能」、発音を真似るため口の筋肉を使うので「身体・運動知能」を用いる事ができる。世界史を学びたいのであれば、誰かと協力してレポートを仕上げれば「人間関係形成知能」も一緒に使う事ができ、記憶の定着に雲泥の差がでる。学習内容を絵に描けば「視覚・空間知能」も使用することになるし、外に出かけてフィールドワークにすれば「自然共生知能」も使うことができる。

この理論の有用性は、教科書とのにらめっこで左脳に記憶していくだけの学習法とは異なり、複数の知能を複合的に使用することで学習を「体験」に置き換える点だ。

体験は右脳に、つまり潜在意識に蓄積される。
そして潜在意識は顕在意識の数十万倍もの処理能力を持っているので、学習効率が飛躍的にアップするというカラクリだ。

学びも遊びに。遊びも学びに。

この8つの知能を眺めながら「今日はどれとどれにしようかなぁ」などとプランを練るのは、さすがにちょっと面倒だ。でもそんなに難しく考えず、遊びや娯楽に学習を混ぜ込もうと考えれば良い。それでほぼ間違いなく複数の知能を同時に働かせる事ができる。キーワードは「体験」。右脳は体験にめっぽう弱いのだ。

「学習」と言えば机に向かって教科書を開くことだという強い認識があると思う。それはしょうがない。私たちはそうやって育てられてきた。しかし、学習を飛躍的に効率化させたいのなら、その先入観を取り払うことから初めてほしい。

学びも遊びに。遊びも学びに。

大きなステップアップを望む全てのビジネスパーソンにとって、これはとても重要なキーワードになる。

ナレッジ・ノウハウカテゴリの最新記事