人が即座にものごとを判断できるのはナゼなのか

人が即座にものごとを判断できるのはナゼなのか

意思決定をする際の2つの思考プロセス

意思決定を行う際の思考プロセスには2つのタイプがある。ヒューリスティックとシステマティック、端的にいうと直感と熟考である。

ヒューリスティックは主に過去の経験などを参考に直感的に高速で判断する。一方、システマティックでは、性能、価格、機能などの比較、さまざまな条件を考慮して合理的に判断する。

人が即座にものごとを判断できるのはこれらの思考タイプを状況によって使い分けているからだといえる。

身近な購買活動に置き換えてみると分かりやすい。スーパーで長ネギを買おうとした時の思考プロセスを考えてみる。

・中国産98円と国産198円の長ネギが並べて陳列されている。
・大雨の影響で今年は野菜の価格が高騰気味だ。
・中国産の野菜は味、品質の面で少し不安を感じる。
・火を通して使うのか、生のまま薬味として使うのか。

この場合には、経験やその場の状況などを瞬時に照らし合わせて自然と優先順位をつけて瞬時にどちらを買うか判断している。生活に必要な消耗品などの低額商品はヒューリスティック、趣味嗜好品など高額商品ではシステマティックが使われる場面が多い。

これまでの伝統的な経済学理論では、人は常にたくさんの情報を吟味して意思決定がなされているというのが通説であった。しかし、すべての場面で熟考していては大きな手間と時間がかかる。

そのため、安価なモノや強いこだわりがないもの、あまり重要度が高くないものについては、効率よく省エネで決断するヒューリスティックを多用する傾向があるのだ。

直感の落とし穴

直感的に意思決定するヒューリスティックには、効率が良い一方で注意しなくてはいけないこともある。

例えば、よく見るCMの商品や電車の中吊り広告で紹介されている新発売の商品をつい手に取ってしまうことはないだろうか。

「最近よく見かける」

記憶に残り、思い出しやすいものは、値段や品質を細かく検証することなく直感的にその商品を選んでしまう傾向がある。

これは、人が記憶に残っているものを信用するからで、よく見聞きするものは身近に感じ、「売れている」ものと無意識に思い込んでしまうからだ。

取り出しやすい記憶情報を優先的に頼って判断してしまうことを、利用可能性ヒューリスティックという。

この作用をうまく利用しているのが前述した企業の広告戦略で、身近に目にする広告だけではなく、ふと口ずさみたくなるような音感の良いキャッチコピーやジングルなどもその一種だ。

もう一つ、唐突だが、ここであるナゾナゾを紹介したい。

父親が一人息子を連れて車でドライブに出かけた。
道を走っていると、ハンドル操作を誤ってしまい大きな交通事故を起こしてしまった。
父親はその事故で亡くなり、助手席に座っていた息子も意識不明の重体。

すぐに救急車で病院に搬送されて、手術を受けることになった。
ところが、病院に到着するなり担当の外科医が子供を見てこう言った。

「私の息子なので、手術できない。」

これは、いったいどういうことか。

以前、この文章の答えを見てハッとした記憶がある。

自分の息子と発言する医者は何者なのか。頭に?マークがいくつも浮かんで、どういうことかまったく理解ができなかった。






答えは、外科医はその息子の母親だった、である。

無意識に医者が男性であると思い込んでしまっていた。いわゆるステレオタイプというやつで、アメリカ人は陽気で自己主張が強いみたいなのも同じだが、こういった典型的な例を当てはめて、全体もそうだろうと結論付けてしまう直感的な選択を代表性ヒューリスティックという。

医者=男性のような話は、その先入観を逆手に取った面白いナゾナゾだ。

直感による判断が実は誰かに巧みに誘導されているものだったり、もしかすると無意識な思い込みで誤った選択かもしれない。これには十分注意が必要だ。

実用性が高い行動経済学を応用したナッジ理論

行動経済学の中にナッジ理論というものがある。

ナッジとは、「ヒジでそっと小突いて後押しする」という意味。企業のみならず、国の施策などでも利用されているとても実用性が高い理論なので、いくつか事例を紹介したい。

オーストリアのドナーカード
オーストリアでは、臓器提供の同意者が少ないという課題を抱えていた。

そこで、免許証や保険証の裏側にある臓器提供欄を、“同意しない場合にサインを書かせる”という形態に変更。また、提供臓器の一覧も記載し、“提供したくない臓器をチェックさせた”。これにより、臓器提供者の同意の割合が格段に上がった。

選択の自由がある場合に、選ばせたい選択肢を初期設定(=デフォルト)にしておく。人は情報が多いと考えるのをやめて、直感的に判断する傾向がある。

また、長い文章や多くの選択肢がある状態では、元々の選択肢を変更しにくいため、あらかじめ選択されたものをそのまま選んでしまう。

イギリスの納税督促状の例
税金滞納者に「納税期限が過ぎているから早く納付してください」という督促状を送っていたが、中々効果が見られない。

そこで、納められている税金がどのようなところで役に立っているのか、また、ほとんどの人が期限内にきちんと納税している事実を記載した。これにより、納税率が上がった。

支払いのお願いではなく、人に元々備わっている役に立ちたいという「利他性」、また、自分の考えを周囲に合わせたり、みんなと同じ行動をしようとする「同調効果」を刺激させた。

さいごに

人は常に自己の利益を最大化させる合理的な決定を行っていると信じられてきた。

しかしながら、自身を省みても必ずしも合理的に行動しないことは周知のとおりだと思う。悔しいことに、「わかっているけど、できない」というケースだけではなく、合理的だと信じて取った選択が実は非合理だったと後で気付くということも往々にしてある。

それは人が無意識に支配されているからで。意思決定には必ずクセがあるからである。

我々は毎日、極々些細なことから人生を左右するような大きいものまで様々な意思決定を行っている。何気ない行動の動機を探ってみることが、自分を掴むカギになるのかもしれない。

ナレッジ・ノウハウカテゴリの最新記事