【競争戦略のおさらい】差別化要因を決定づける3つの切り口

【競争戦略のおさらい】差別化要因を決定づける3つの切り口

ビジネスを飛躍、持続させていくためには、競争戦略的思考が必要不可欠だ。

これは自明のことのように思われるが、インサイト、ユーザー体験、イノベーションなど──新たな価値提案や付加価値創造の必要性が声高に叫ばれるようになって久しい昨今、その存在が少々おざなりにされている。

革新的なビジネスアイディアは、直感的で超常的でセンセーショナルで、とにかく輝かしく見える。そのため、そちらに過剰に目が向き、実際的で地味な戦略的観点が日陰に追いやられてしまうのは、半ば仕方ないのかもしれない。

けれど、いかに独創的な価値提案であっても、その成功の裏には必ず有効な戦略がある。この点を忘れないよう、今回は競争戦略の基本的な視点をおさらいしていこうと思う。



競争戦略とは差別化された立ち位置

競争戦略とは一体なんなのだろう。

競争というからには、競合他社の存在がある。それらと比しての価格優位性だろうか。他社を圧倒する機能性だろうか。それとも、顧客を魅了し独占し得るブランドだろうか。

そのどれもが間違ってはいないが、根幹を表すにはやや枝先の要因に過ぎる。

マイケル・ポーター曰く、競争戦略とは『ポジショニング』である。

苛烈な競争に曝されないために、疲弊してしまわないために、持続し続けていくために、身を置くべき市場の中で差別化された立ち位置だ。“競争”戦略と言っておきながら、その実、この思考原理は「競争しない」「戦わない」で済む陣取りを目指している。

では、そのポジショニングをいかにしていくべきか。

これを正確に説明するには多くの言葉を要する。競争には少なくない異なる要因が複雑に関与しており、何をどうすれば良いとは一口に言えない。

なのでこの場では、なるべくシンプルに言い表せるよう、その切り口となる3つの観点からこれを紐解いていきたい。

相対的価格という視点でターゲットする

競争戦略の勝利条件は、他社を滅ぼすことでも、シェア1位を獲得することでもなく、シンプルに競合他社と比して高い収益率を達成することだ。

その為には『相対的に高い価値』を提供するか『相対的に低いコスト』に抑えるか、もしくはその両方を達成すれば良い。

その上でまず、最もわかりやすい要因として『相対的価格』という視点から考えると、市場での差別化を図ることができる。

価格の設定とは、例外なくサービサーの頭を最も悩ませる難題だ。

自らの提供する価値に顧客は一体いくらまで支払い、いくらから興味を失うのか。答えのない問答に嵌まり込んでしまったご経験のある方も少なくないだろう。

そのように細かく具体的な価格を設定しようと思うと、相応の時間を要するし、そもそも切り口として価格から入るのは無理がある。なので、ここで言う『相対的価格』とは、あくまで他社と比べて安いか高いかの二者択一に止める。

相対的価格を決定するには、ターゲットする顧客セグメントを次の2つから選択する。

1.ニーズを過剰に満たされている顧客セグメント
2.ニーズが十分に満たされていない顧客セグメント

前者であれば、過剰なサービスを取り除いてディスカウントする。後者であれば、提供するサービスを付け加えてプレミアム価格を設定するのだ。

ここで大切なのは、いずれかの顧客セグメントに“集中”することだ。これをなさなければ、差別化にも戦略にもなり得ない。

よくある過ちで、いずれの顧客にも集中せず、八方美人的なビジネス設計をすることがある。より多くの見込み客を取り逃したくない──機会損失を恐れる心理で、こういった選択をしてしまうのはよくある話だ。

これは『スタック・イン・ザ・ミドル』と呼ばれている。

例えばその様な振舞いを続けていたとして、上述のような戦略的に狭い顧客セグメントに集中した競合が現れた場合、下からディスカウント価格の事業者、上からはプレミアム価格の事業者と板挟みに合って、身動きが取れなくなる最悪の事態に陥る。

4つのアクションで価値提案にメリハリをつける

次に特徴ある価値提案メリハリのある機能を考える。

前項で「過剰なサービスを取り除く」「提供するサービスを付け加える」と言ったが、「ブルーオーシャン戦略(ダイアモンド社出版)」に倣って、これにもう2項目付け足したい。

・取り除く
・減らす
・付け加える
・増やす

この4つのアクションを組み合わせて、他社と差別化された『特徴ある価値提案』を行っていく。

これには、業界の他の事業者の価値提案を分析し、どのような要因で競争されているかを理解した上で、ターゲットした顧客セグメントの視点で、どういった『メリハリある機能』を実現すべきかといった議題になる。

例えば、1000円カットでその名を轟かせたQBハウスは、ターゲットを「ニーズを過剰に満たされている顧客セグメント」とりわけビジネスパーソンに設定し、大胆で特徴ある価値提案を行った。

まず、それまで理容業界で当たり前に提供されていたシャンプーやマッサージなど、散髪以外のサービスをことごとく取り除いた。その結果、一顧客あたりの所要時間は業界平均の60分から10分へと大幅に短縮され、安価、時短という価値提案が付け加えられた。

さらに、店頭には駐車場の空き状況を示すかのような電号表示が設置され、担当者を予約する面倒も取り払われている。機能を大幅に削減したことにより狭い敷地での営業が可能となり、便利な立地に出店することで、ビジネスパーソンの隙間時間で散髪したいニーズを的確に満たしている。

QBハウスの例は、極めて優れた戦略設計だが、このような洞察を得るには、徹底した顧客視点が必要だ。なぜなら顧客は自分の本当のニーズをほとんどの場合わかっていない。

その上で、

「何が過剰に満たされていると気づいていないのか」
「何が十分に満たされていないと気づいていないのか」

という問いを建て、考察していく。

これには、顧客がサービスを利用する場面はもちろん、その前後の文脈も含めてどのような体験の連続になっているのかを見極めることがポイントとなる。

ちなみに、QBハウスの創業者は、ご自分の実感から洞察を得たらしい。これは「顧客は自分の本当のニーズをほとんどの場合わかっていない」が適応されない、ごく一部の例外的なケースだ。

バリューチェーンを特別にチューンナップ

最後に、バリューチェーンという視点がある。

これは上記2つと比して非常に分かりづらく、私自身理解するのに労を要した。

バリューチェーンという考え方は、生産性の効率化と混同されるなど少々誤解されることもあるが、サービスを提供する一つ一つの活動の段階それぞれが、何らかの価値を創出していると捉えるものである。

この論理には「活動自体が他社と異なっていることが差別化要因になる」という根本原理が存在する。

逆説的に言えば、いくら特徴ある価値提案を行っていても、活動自体が他社と同一であっては、誰でも同じニーズに対応できることになってしまう。それでは、そのポジショニングに差別化も独自性もへったくれもない。

その上で、サービスを提供する一つ一つの活動の段階それぞれがバリュー(価値)であると考え、それらの連鎖をバリューチェーンと呼ぶのが、この定義の真だ。

相対的価値で選択したターゲットと、それに合わせた特徴ある価値提案、それらに合わせて、このバリューチェーンを特別にチューンナップすることで、ビジネスは複雑に差別化され、強固な独自性を持ち、高い参入障壁を得られるようになる。

以上3点が、競争戦略を設計するにあたり、まず切り口として理解しておくべきポイントとなる。

冒頭を繰り返すが、インサイト、ユーザー体験、イノベーションなど──新たな価値提案や付加価値創造の必要性が声高に叫ばれるようになって久しい昨今、こういった競争戦略の存在が少々おざなりにされている。

しかし、ビジネスを飛躍、持続させていく上でこういった思考は必要不可欠であり、加えて極めて重大な洞察をもたらしてくれる先人の貴重な知恵だ。

ナレッジ・ノウハウカテゴリの最新記事