テレワーク体制を確立するために乗り越えるべき2つのポイント

テレワーク体制を確立するために乗り越えるべき2つのポイント

6月1日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が全国的に解除された。

ほとんどの場面において自粛規制が大幅に緩和され、県境をまたぐ移動の自粛についても今後段階的に緩められる方向性が示された。コロナ渦収束の一旦の目処が顕になってきた格好だ。これにホッと胸をなでおろした人も多いのではないかと思う。

一方で、まだワクチンが完成していない現状や第2波-もしくはこの脅威が今後続いていく可能性-への懸念から、ライフスタイルやワークスタイルの新たな生活様式“ニューノーマル”の推進も叫ばれている。

密閉、密集、密接、いわゆる“3密”を避ける新しい社会の在り方に適した生活を常態化しようといった趣旨だ。

その中で、企業が進めていくべき喫緊の課題として筆頭にあげられているのが、リモートワークやテレワークと呼ばれる、いわゆる遠隔勤務の本格的な実装である。

テレもリモートも、訳せばいずれも「遠隔」である。すなわち、それにワーク「勤務」を組み合わせた「テレワーク」「リモートワーク」は、いずれも「遠隔勤務」を意味する。

少し前には概念に若干の違いがあったらしいが、現在はほとんど使い分けられていない。したがってどちらの言葉を使っても構わないのだが、政府が「テレワーク」の方を汎用しているので、そちらを踏襲することにする。



テレワーク最大の恩恵は労働“体力”

テレワークとはその名の通り、社屋に通勤せずに遠隔地で業務を行う働き方だ。

そもそもは、大気汚染や度重なる石油危機に喘いだ70年代のアメリカで生まれた言葉であり概念だったらしいが、ITインフラなど通信技術革新が起きた現代では、その背景にも実現難易度にも大きな優位的差がある。

PC購入費もインターネット通信費も格段に安価になり、映像付きのビデオ通話も簡単に実装できる。連絡やデータのやり取りまでも、メールにチャット、クラウドなどのストレージを使用すれば無料ないし格安で導入可能だ。

何か特別な専門機器を扱う職種だったり、施工や接客etc…どう考えても不可能な場面もあるが、デスクワーク主体の大多数の労働者にとって、テレワークの導入は安いコストで容易く実現することができるようになった。

しかもその恩恵は計り知れない。

政府が提示しているように、コストカットや効率化による労働生産性の向上など様々な推進されるべき利点があることはご周知の通りだろうと思うので敢えて述べないが、一つ注目してほしい点について語らせてほしい。

それは、労働者に大きなストレスを課している通勤時間が緩和ないし無くなるということだ。これは労働者の体力という視点から見た労働力に対して多大なメリットを生む。

労働者がその能力を発揮し、最大限の成果をあげるために必要なことを表した以下のような図がある。

これは以前、株式会社リンクアンドモチベーションの小笹芳央社長(現在は会長)のインタビューで拝見したものだ。かなり意訳になってしまうかもしれないが簡単に解説する。

企業で求められる社員の能力は、一見この図における頂点に位置する“スキルや能力”と捉えられがちである。だが、実はそれを余す事なく発揮するためにはモチベーションが必須であり、さらにモチベーションを維持するためにフィジカル、つまり土台となる体力の充足がなくては何もままならない。

ほとんどの企業は、社員にスキルや能力の向上ばかりを求める。もちろんスキルや能力を求めることは間違ってはいない。そもそも業務遂行に必須であり、覚え、磨いてもらわなければならない。

しかし、それのみしかサポートしない体制では最大限の成果をあげることは叶わない。社員に均一の苦しみを与えることが目的でないのなら、同等の力でモチベーション面やフィジカル面のサポートも充実させるべきなのである。

そう考えると、-特に首都圏の満員電車など-労働者から多大な気力体力を奪っている通勤の改善は、一つのサポート方策として大いに検討するべきことがわかる。

とはいえ、暗にテレワークを支持する意図は私にはない。

IBMやYahoo!などの巨大企業が失敗に終わり、AppleやGoogleなどのユニコーン企業でも導入を見送った過去から見て取れるように、テレワーク実装の裏には、その利点を生むまでに様々な壁障が存在する。これは以前の記事中(アフターコロナの世界をどう生きる-【フェーズ3】新世界の創造-)でも少し触れている。

ではその壁を上手く回避し、恩恵だけを素直に受け取るためには、どのような点に注意して運用して行けば良いのだろうか。

2つのポイントに絞って考えていきたい。

【ポイント1】管理労働からの脱却

まず一つ目に挙げられるのは、勤怠管理の難しさだろう。

当たり前の話だが、遠隔地、はたまた在宅での業務時間を会社から把握することは容易ではない。

社屋に勤務する体制下では、その場にいる時間が勤務時間であり、出勤から退勤までの時間で簡単に把握することができていた。タイムカードなんてものもあるし、社員それぞれが自ら打刻すれば良いのだからこれにかかる管理工数はほぼ無いに等しい。

ではこれを、出勤もタイムカードもない環境下でどう実現するかと考えると頭が痛くなることと思う。

はじめは悪い冗談かと思ったが、PC画面の常時共有や離着席の状態を都度送信できたりするツール(有り体にいえば監視ツール)の導入を検討したり、実際にそういった管理専用のサービスも提供されはじめている。

それらの需要からも分かる通り、多くの企業がテレワークに抱える問題点の大半はこの点に尽きるのではないだろうか。




はっきり言おう。




私は「勤怠管理」という言葉を死語にするべきだと思う。

今後テレワークを、積極的でないにしろ一部でも導入するのであれば、今までのような勤務時間の完全把握は不可能だから諦めてほしい。

かといって監視体制を強化したところで業務の効率化には多少の効力しか及ぼさない。サボる人は別の誤魔化し方を発見してサボるし、今までサボらなかった人が監視による「やらされ感」でやる気をなくす可能性すらある。

もう一度前項の図を見てもらいたい。

業務を遂行する、生産性を上げるには“スキルや能力”が必要だ。しかし、それを発揮するには“モチベーション”が充足していなければならない。

つまり、モチベーション低下が明白な「監視」という方策をとるデメリットを想像してもらいたい。

テレワーク体制を確立する上で、視座を転換しなければならない最初のポイントは、「管理・監視による業務遂行」から「モチベーションによる業務遂行」だ。

【ポイント2】ビデオ会議で欠けるクリエイティビティ

もう一つは、創造的な場の構築の難しさ

「創造的な場」などと言われても、もしかしたらあまりピンとこない人も多いかもしれないが、AppleやGoogleがいかにも飛びつきそうな「テレワーク」という先進的な働き方をいち早く導入できなかった最大の要因は、むしろこちらの方なのではと愚考している。

テレワークの一般的な恩恵の一つに「無駄な会議が減る」というのがある。

確かに多くの会議はその大半を無駄に過ごしている嫌いがあり、それを是正するためにスタンディング(座らず立ったまま)を推奨したり時間制限を設けるといった施策を講じている企業もある。

テレワークでは上司や同僚が同じ空間にいないため、そもそも会議の回数自体が厳選される。そういった意識の延長で、必要最低限の議題に集中する空気ができているのも確かだろう。その為、より効率的な時間配分が実現でき、生産性が上がったといった理由で歓迎する声も大きい。

しかしそれはあくまで下流での話である。

ビジネスのもっと上流では、下流とは全く異なった力学が求められている。その力学というのは、創造性クリエイティビティだ。

クリエイティビティとは、場や空気といった極めて曖昧なモノから出現する。

その為、場合によっては一見無駄とも思える時間の使い方-例えばアイスブレイクなど-を進んでする必要もあるし、共創して育んだ空気感とか場の機微を敏感に感じ取らなければならない。

そういった視点で評すると、ビデオ会議はあまりに拙い。

整理され言語化された情報とそのニュアンスを伝える程度のやりとりであれば、ビデオ会議の効率性は極めて高いと言える。

だが、まだ言語化されていない情報の交換とか、意識の奥にある源流を探る無から有を出現させるといった、より直感的で創造的なダイアログの場を構築・演出しようと思うと、交換できる情報量の限界に打ちのめされる。

これを「下流で働く自分には関係のないこと」と切り捨てるのも危うい。

テレワークにより、上流と下流の業務がハッキリと分断されてしまっては、新人はいつまでもそういった上流のプロセスを学ぶ機会に巡り会えない。

この問題解決の難しさ、もしくは解決するためのコストの高さが、AppleやGoogleといったクリエイティビティを重んじる企業に、テレワーク導入を差し控えさせたのではないだろうか。

視座を転換したその先にきっとある正解

以上2点が、テレワークを推し進める道程で必ず突き当たる壁であり、考えるべきポイントとなるだろう。

【ポイント1】では、これに付随して給与体系や昇給システムの見直しも重大な考慮点になる。

巷では「成果報酬型への移行」という題目で、日本企業の在り方改革を叫ぶ人が目につくが、モチベーションに注目した場合、安直な成果主義による評価は、勝敗を決してしまう、それも直近の数字で決してしまう点に注意を向ける必要がある。

比較され敗者と自分を断じてしまった人のモチベーションにも十分配慮しなくてはならないし、中長期的な業績を支える仕事に、そもそもこのシステムは親和性がない。

【ポイント2】は、正直なところ私自身これを解決する糸口が見えていない。

上流の会議はオフラインで通常通りに行うしかないのか、その参加者を意識的に増やすなんていう精神論で、新人も含めた全従業員に平等にそのプロセスを経験させるのか。

はたまたクリエイティブな場をオンライン上でも構築できるようなファシリテーション能力を開花させるのか、最新のVR技術などを使って本物そっくりなバーチャル空間でも作れば良いのか。

これについては、おそらくこの創造的-無から有を出現させる-プロセスが曖昧かつ多様で柔軟すぎることが問題となっていると思う。これをもう少し具体的に紐解き、体系化して理解することができれば、オンライン代替えへの糸口も見つかるかもしれない。

いずれにしても、まずはやってみないことには明確な問題点は可視化されない。

変化を恐れず、ただし重要なポイントを置いて行かぬよう、実施と改善の経験を重ね、最善を模索していきたい。

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